うさぎパイナップル

ただ、書くことが好きなだけです。

Dreams on Ice 2010⑥

※この記事は昔書いたものを修正して今更載せています。詳細についてはこちらをご覧ください↓

usagipineapple.hatenablog.jp

 

私が抜け殻になれなかったのは、どうしてもこれを見なければならなかったから。
高橋大輔の新プログラム。
ステファン・ランビエールによる振付。
本来はショートプログラムだけ作る予定だったけど、そちらが早く完成したので没になった曲で急遽作ってしまったという、エキシビション用プログラム。
ステファンの、振付師としての仕事の、日本ではたぶん初めての披露が。
まさか高橋大輔なんて。
誰もが予想しなかったであろう、かつてのライバル同士が、オリンピックからさほど間もないこの時期に、作り上げた作品。
世界初公開。
その瞬間に居合わせることに、胸が、体が震える。

氷の上に滑り出して来た高橋君は、何だかとてもか細く、小さく見えた。スクエアネックの黒いシャツ、グレーのズボン。まるでステファンの「Ne me quitte pas」の衣装のよう。
曲が流れ出す。物哀しいピアノのメロディ。
映画を観たことがないのに、何の曲かわかってしまっていた。後から確かめて、やはりと思った。
アメリ。
ステファンの好きな映画。

マイムで始まる、高橋大輔のアメリ。変な意味じゃなく、まるで少女のように見える高橋君。
その高橋君に、ステファンの影が重なる。
あれは確かに高橋君なのに、まるでステファンが滑っているみたい。でもステファンじゃない。高橋君でもない。知らない誰かが滑っているよう…。
最後に高橋君が倒れ込むまで、呆然と見つめてしまいました。お客さんも少しざわめいてからスタオベが起こるような状況。
ステファンが選手席から見守っていたらしいので、高橋君は緊張していた模様。それも良く伝わってきました。

たぶん、賛否両論分かれるプログラムだと思う。
私は、もう一度見たい、と強く思った。
色気を押し出しているような派手なプログラムも決して嫌いではないけれど、私は静かな曲で滑る高橋君こそ実は見たかった。トリノオリンピックシーズンに滑っていたシークレット・ガーデンのような。うまく言えないけれど、もしかしてリリカルなプログラムこそ、高橋君の良さが生きるんじゃないのかなと勝手に思ってた。
たぶんこれをステファンが滑ったら全然違う印象を持つと思う。とてもステファンに似ていたけれど、やっぱり何か違っていた。
見られて良かった。本当に横浜に来られて良かった。

だけど、客席の私は少し泣きそうになっていた。
高橋君が纏うステファンの影が、悲しかったのだ。
確かステファンは、バンクーバーの後に引退会見をしていなかったと思う。1回目の引退の時は公式な会見があったので、その絶望的な事実を容赦なく受け入れる以外に方法がなかった。その年は個人的にも散々な1年だったので、ジェフに引き続いて発表されたステファンの引退は、まさにとどめと言ってもいい程私にとっては絶望的だった。フィギュアスケートを真剣に見るようになっていちばん悲しかった秋かもしれない。バンクーバーの直後にアマチュア規程に引っ掛かるショーに出たので事実上引退に等しいけれど、あの時のように本人が公式に明言していないので(少なくとも私はそういう場が持たれたのかどうか知らなかったので)、本当にこれで引退なのだろうかと、モヤモヤした気持ちが胸に巣食っていた。最後通告も辛いけど、これはこれで辛かった。
選手の引退はいつだって寂しい。受け止められるようになるまでには、やはりそれなりに時間がかかる。
どうしようもなく流れていく時の前に、ただその寂しさを忘れていくしかない客席の私は、終わってしまったひとつの時代の影を、これからはこうしてその影を誰かの上に見ていくのだという事実を突き付けられて、嫌でも現実と向き合わねばならなかった。
もしかしたら、彼の中にも迷いがなかったわけではないのかもしれないけれど、何故会見がないのか引っ掛かってはいたけれど、それでも、おそらくもう競技の舞台に彼は戻ってこない、その現実に。向き合うことを避けていた、その事実に。

ああ脱線してしまった…。でもこれも感想の一部なので許してください…。私はステファンの演技がとても好きなので、今後も彼がやりたいと思うことをやって欲しいけど、こうやってショーにも出来る限り出て欲しいです。彼になら惜しみ無くスタオベを送るファンが、きっと世界中にいるはずだから。

もうちょっと続く。いい加減長いよ!