うさぎパイナップル

ただ、書くことが好きなだけです。

氷上の覇者、さもなくば銀河の覇者

今さらですが、羽生君の今シーズンのプログラムについてひっそりと。

昨シーズン終了の時点でうっすら思っていたことは、ショートプログラムはおそらく変更だが、新しく作成するのではなく過去のプログラムを焼き直すだろう、ということ。

羽生君はここ数シーズンショートプログラムを持ち越して滑り込み、2シーズンかけて完成させている印象がある。実際、その作戦はソチオリンピックシーズンでも功を奏している。それで行けば昨シーズンのプリンスは持ち越されるはずだったが、あのプログラムはオリンピックシーズンのプログラムとしてはふさわしくないように感じていた。しかも手痛いミスが多く発生し、いいイメージも持てなかったように思う。非常に盛り上がるし、羽生君の俺様系プログラムは個人的に大歓迎なのだが、それでも今シーズンのプログラムとして選ばれることはないだろうと思った。

そうなると、新しいプログラムが作られるのか、という話になるが、昨シーズンどうも成功のイメージのなかったショートプログラムを新たに作成し、本人にフィットするか、ジャッジに評価されるかを探るには、1シーズンでは短すぎる。羽生君の背負っているものはあまりにも大きい。彼は負けられないのだ。正直、見ている側からすればいい演技であれば何位だって構わないのだが、演技をする側にとってはそうではない。前オリンピックの覇者として、彼は絶対に結果を残さねばならない。そんなのどうでもいいんだよ、楽しく滑ってくれたらそれでいいんだよ、とつい我々は言ってしまうが、それは無責任な外野の呟きでしかない。

で、結局どうなるかと言うと、過去のプログラムを再び滑ることになるわけだが、さすがに3シーズン同じものを滑ることはないんじゃないかなあ、と思っていた。そこで私が考えたのは、フリープログラムをショートプログラムに焼き直すという作戦であった。たとえばSEIMEIはどうか。あれは実に羽生君に似合う、おそらく羽生君以上に滑りこなせる人物はいないプログラムである。ショートサイズにするということは結局別のプログラムになるということかもしれないが、当時の世界最高点も叩き出したイメージのいいプログラムであり、もう一度見たいと思っている人もおそらく少なくはなく、選択肢としてはそう誤りでもない気がした。もちろんこれは私の勝手な妄想でしかないのだが。そう、私がもう一度SEIMEIが見たかっただけですごめんなさい(笑)。

そして今シーズン、蓋を開けてみれば、まさかのバラード3シーズン目。
…結構びっくりした。そう来るとは。しかし、結局それしか選択肢はなかったように思う。
バラードは「綺麗な羽生君」を堪能できるプログラムだが、彼のうちに潜む激情が顔を覗かせても違和感のないプログラムでもあり、羽生君としても滑りやすいのかもしれないと感じることはあった。ショートプログラムでの失敗は許されない。これまでの羽生君であればいくらでもフリーで巻き返していたが、これだけ4回転ジャンプや表現に長けた選手がひしめいていては、もうフリーだけに頼るのはあまりにも心もとない。バラードは非常に難易度の高いプログラムに思えるが、しかし現時点でのショートプログラムにおける世界最高点を保持しているのはこのプログラムであり、羽生君はほぼ完全にこのプログラムを体に染み込ませているはずだ。今更振付やジャッジの評価等で悩む必要もなく、ただひたすらジャンプの完成度だけ磨いていける。絶対に勝つためには、これが最適の選択肢だったと言えるだろう。もちろん、実際に試合が始まってみなければ、そう言い切れるかはわからないところだが。

そしてフリープログラム。ショートプログラムは早い段階で発表されていたが、フリーは今月の公開練習まで秘密のベールに包まれていた。ショートプログラムが過去のプログラムの持ち越しであったことから、フリーは新たに作成されるのであろうと考えていたが、こちらも蓋を開けてみれば、バラードと同じシーズンに使用していた「SEIMEI」だった。
びっくりした。びっくりしたと同時に、納得した。そうだ、これしかない。

ショートプログラムについての記述で散々持論を述べた通り、絶対に勝つためにはおそらくこれがベストの選択肢である。新たにプログラムを作るということはリスクが伴う。もし彼には「合わない」プログラムだったら?修正している時間はない。その暇があるならジャンプの精度を上げることに時間を割いた方が、少なくとも今シーズンだけは結果に繋がるように思える。1点でも多くもぎ取らなければ勝てない。
もちろん、過去のプログラムということで飽きられてしまうとか、これまで以上の滑りをしなければ評価されないだろうとか、かつて世界最高点を叩き出したプログラムでありそれを超えることが暗に要求されるという、とんでもなく高いハードルまで課される、等といったリスクもあるわけであるが、それでも、2015年のあのシーズンを戦ったこれらのプログラムを滑る方が、より確実に勝てると踏んだのだろう。私もそれは間違いではないように思う。

何よりも「SEIMEI」というプログラムは魅力的でありすぎる。誰が滑ってもいいわけではない。羽生結弦が滑るからこそあのプログラムは強烈な魔力を発生させるのだ。
何故オリンピックシーズンにこれを滑らなかったのだろう、勿体ない、と実は思っていた。何故かと言われても、オリンピックシーズンに滑るにはリスクのあるプログラムだからなのだが。題材が思いっ切り日本、しかも陰陽師というマニアックさ。果たしてジャッジに理解されるのか。そんなリスキーな題材をいきなりオリンピックシーズンにぶつけてくるのはあまりに危険である。そもそもオリンピックシーズンでなくともリスキーであった。
しかし、このプログラムは結局世界最高点を叩き出した。芸術面でも評価されなければあり得ないことだ。陰陽師が何者か等といったことはどうでも良かったのかもしれない。そもそも我々日本人であっても正確に理解している人は少ないだろうし、外国の人にとってみれば、「ニンジャ」「ゲイシャ」「フジヤマ」的な、漠然とした日本のイメージと大差なく受け入れられるものだったのかもしれない、ちょっと説明が難しいがそんな風に感じた。
何より、そんな小難しいことなど吹き飛ばすほど、羽生結弦という人物そのものがプログラムに説得力を持たせていた。
透き通る白い肌、リンクに映える漆黒の髪、相手を射抜く切れ長の瞳、細くしなやかな体躯。これほど日本人そのものであり、日本人らしい美しさに溢れた男子選手はかつて存在しなかったのではないか。彼が和のテイストに溢れた音楽と衣装に身を包んでいるというだけで、そこには日本の文化そのものが拡がる。いちいち理解などする必要がない。
しかも、その可憐とも言える容姿とは裏腹に、彼の内には修羅が棲む。その修羅が鎌首をもたげたとしても、このプログラムにおいては違和感がないどころかプログラムにますますの凄みすら持たせる。京の都に巣食う魔を調伏する陰陽師。その鋭い眼光に射抜かれただけで、低級な魔物であれば消滅してしまうだろう。
まるで漫画である。ファンタジーだ。しかしこの二次元っぽさこそが羽生結弦のほかにはない武器のひとつなのである。少年漫画の主人公のような性格や運命の持ち主である上に、現実離れした美しい容姿。本人の存在がそもそもファンタジーである。初めてSEIMEIの衣装に身を包んだ羽生君を見た時、あまりの違和感のなさっぷりに「成長したリアルハク様」などとほざいたものだが、その後「皇昴流」と言われているのを知って「それだあああああああ!」と膝を打ちまくった(笑)。そう、彼は日本が誇るオタクカルチャーの申し子。言うなれば、本人が憑依してる勢いの、死ぬほどレベルの高い安倍晴明のコスプレ。それを可能にする素質を現時点では世界最高に保有する稀有すぎる人物。まさに日本の宝。
…嬉々としながらイヤホンについて語る羽生君は欠片のオーラもないただのオタクだが、その青年が氷の上ではあれだけの怪物になるという凄まじいギャップ。そりゃ、人気も出るだろう。こんな選手は今までに存在しなかった。少なくとも私はそう思う。

延々と語りまくってしまったが(汗)、要するにこのプログラムは、あまりにも羽生君に似合っているのである。羽生君の特質をすべて捉え、しかも最大限にそれを引き出せる。フィギュアスケートというスポーツにおいては、こういった要素は決して馬鹿にできない部分である。どれだけ技術的に優れていても、魅力に欠けた心に残らないプログラムでは、「伝説」は作れないのだ。

しかもである。慣れたプログラムということで、ここぞとばかりに思いっ切りレベルを上げてきたジャンプ構成。あの美しいトリプルアクセルリカバリー用にするなんて。何言ってるのか全然わかんないんですけど!さすがジャンプの変態!←褒めてます
しかしトリプルアクセルを2本跳んだ上で4回転ジャンプを5本跳ぶには、現実問題としてもう1本4回転の種類を増やさなければならない。ライバルたちの動向によってはそれもあり得ない話ではないだろうが(かつて報道番組で流れた4回転ルッツの出来からしてもいつ実戦に投入してきたとしてもおかしくないと思った)、だがやはりリスクは大きい。超難易度の構成を確実にノーミスで滑り切ることの方がおそらくはより勝利に近い。そして世界最高点の更新も視野に入れているかのような発言。ぜんっぜん守りになんか入ってない。どれだけ攻撃的なんだ。彼は勝ちにきている。勝ちたいとはっきり言っている。そこが彼のたまらない面白さだ。もちろん、前述したように試合が始まってみなければどうなるかはわからないことだが、彼の作戦は基本的に間違っていたことがない。常に先を読んでいる。スポーツ選手のファンであることの基本は「その選手を信じる」ことにあると思っているが、そういう意味で彼ほど安心して信じられる人物もいない。強いはずだ、と改めて思った。

昌磨君が「4回転を5種類入れる」などという、あなたは世界でも征服するのですか?と土下座しながら聞きたくなるような超攻撃的な宣言をしており、今シーズンも宇宙大戦争は避けられそうにありません。我々はいつの間にか少年ジャンプの世界で暮らしていたらしい。既に緊張で吐きそうですが(←早すぎ)今シーズンが非常に楽しみです。誰か!平昌に私を!私を連れてってくれ!言っておくが生活に困窮するレベルに金はまったくないぞ!←行けるかああああああ