うさぎパイナップル

主にフィギュアスケートの旅日記とテレビ観戦記とお題記事・ただ書き散らして生きていたい

All Japan Medalist on Ice 2014③

※この記事は昔書いたものを修正して今更載せています。詳細についてはこちらをご覧ください↓

usagipineapple.hatenablog.jp

 

そんなこんなで季節はあっという間に過ぎ、今年も迎えた全日本選手権。実力も華も兼ね備えたスター選手が軒並み引退してしまい、かなり雰囲気も変わったように感じる大会でした。

最大の注目株はやはり羽生君。カップ・オブ・チャイナでの事故からグランプリファイナルまでの一連の物語は、彼が主人公となるべく生まれたことを強く感じさせる出来事だったように思います。高橋君も随分ドラマチックな運命を背負った選手だなって常々思ってたけど、羽生君は明らかにその上を行ってる…。ワイドショーでグランプリファイナルの話題を取り上げた時某局のアナウンサーは泣いていた。素晴らしい演技でしたね。滑る喜びに溢れた羽生君の姿とその笑顔を見ていると、私も涙が出てきました。

でも私がいちばん心に残っているのは、やっぱりカップ・オブ・チャイナのオペラ座の怪人なのである。あれは「境界」を超えた何かだった。平たく言えば狂気、なのだろう。人は狂気を演じることはあっても、狂気のままに演じることは基本的にない。人は枠組の、境界の外には出ないように生きているから。でも枠組の中にいる間は、枠組の中の常識以上のものは生まれない。特に芸術の分野においては。
境界の外に出てしまった人間の生み出したものを、あんな風に日本全国で、生放送で国民が共有する機会など、おそらく今後もほぼ無いと思う。あれは奇跡的な出来事だったのだ。もちろん羽生君の命や選手生命に別状が無かったことを前提に言っているのだけど、純粋な意志の力というものを我々は目の当たりにしたのである。羽生君にとって滑ることは彼の命であり魂であり、生きることそのものなのだ。
羽生君はとても知性的な人物である。彼の身体の中にいる鬼神はこれからも現れるだろうけど、それは理性を纏った鬼神だ。羽生君がキスクラで泣き出した時、彼は境界の中の人間に戻った。上海のリンクに出現したファントムはもう二度と現れない。その名の通りの幻。
あのファントムに心を揺さぶられた人はきっと多いと思う。でもそのことを表現しようとすると適切な言葉が見つからず、感動したなどというチープな発言しかできなかったり、例え心を揺さぶられたにしても不謹慎な気がして口に出せなかった人が大半なのではないだろうか。でもその感覚は間違っていないと私は思っている。あれ程の批判が噴出したことに、私は今でも強い不快感を覚えるのだけれど、そんな世間の声をグランプリファイナルの演技でねじ伏せてしまった羽生結弦という人物には感服するほかはない。私はもうスケーターという枠を超えて彼に注目している。彼は平成の世に現れた怪物である。この閉塞した時代に彼が生まれたことの意味を、静かに追っていきたいと思う。
…しかしフェルナンデスの腕の中で悔し泣きしている女子のような姿からはまったく阿修羅の内面が想像できないところが羽生君の恐ろしさっすよね…(笑)

そんな羽生君の全日本。顔色は悪いしスピードはないしスピンもミスするし、上海以上に体の不調を感じさせる内容。それでも決して失敗しないトリプルアクセルを武器にぶっちぎって優勝したが(失敗続きだったフリーの最後のルッツもしっかり立ったし!思わずガッツポーズしたわ←笑)、やはり違和感は拭えなかった、と思ったらなんと手術が必要な状態だったと言うではないか。尿膜管遺残症という聞いたこともない病名。命に別状のあるような病気でも症状でもなかったというのが不幸中の幸いだったけど、本当にどうなってるんだ今シーズン。若くして光を得た人はその分闇も深くなるもの。羽生君を襲う闇はこの今シーズンの一連のトラブルなのかもしれない。でもこれがその闇ならば、それは羽生君のスケートにより深みを持たせるために天が与えた試練の闇に違いなく、決して嘆かわしいものではないのではないだろうか。変な女に騙されたりするよりはよっぽどいいに違いない(泣笑)。そうとでも思わなければファンは心配でやってられなかったであろう。
そもそもオリンピックの優勝者が翌シーズンも休養も引退もせずほぼ全試合出場しているというのがあまり例がない。チャンピオンとしての振る舞いや結果を当然のように求められる環境にありながら、なおかつこれほどの体調不良に見舞われてそれでも優勝してしまう羽生結弦という怪物は一体何者なのだろう。それを強く感じた全日本でした。

…ヤバい羽生君の話だけで終わりそう(笑)。シニアデビューの頃から様々なショーの会場でその姿を見続けてきて、きっといつか世界を獲るんだなと思っていたけれど、こんなにも凄まじい選手になるとは。彼は本当にスケートが好きなんだね。本当に大好きだからあんなに命懸けにもなれる。そしてスケートの神も彼に応えてくれたのではないだろうか。

そんな羽生君の最大のライバルと目されていた町田君。ショートプログラムは本当に素晴らしい出来でした。本人もそっと涙を拭っていましたね。しかしフリーで順位を落としてしまい表彰台に上れず…。ジャンプミスは痛かったけど彼の気持ちはとてもとてもこもっていたように感じました。解説も黙って見守ってたし(異例ですよね)。しかしこれで誰が世界選手権代表に選ばれるのかを震えながら待つことに…(泣)。

2位に入った宇野君。いつの間に4回転まで跳べるようになったのか。元々とても艶のある美しい滑りをする選手なので、ジャンプが跳べればそりゃあ強いはず。まだジュニアで滑ってるのが信じられないくらいだもの。相変わらず男子の代表争いは厳しい。

そして3位は我らの!我らの小塚君!(涙)もう号泣しながら見ましたよフリー。もんのすごくいい演技だったし、小塚君の復活を待ってたファンの気持ちが会場に溢れていて、今思い出しても涙が出る。いつの間にか男子シングルは彼が最年長。モンチッチみたいだった彼がすっかり大人になって見せてくれた貫禄の滑りとガッツポーズ、いつまでも覚えていたいです。

最終滑走だったことと代表が見えたことで緊張してしまったのでしょう、村上君はすごく残念でした(泣)。キスクラで涙ぐんでる姿がつらかった…。無良君も素敵なプログラムだけに残念。去年の全日本でひそかに気になってた坪井君、やはり好きな滑りだと思いました。フリーも見たかった←地上波で流れなかった

しかし…本当にもう、高橋君も織田君も、中村健人君も佐々木彰生君もいないんだ…。何だか信じられない…。ちょうど高橋君がシニアデビューしたくらいからスケートを熱心に見るようになった私には、時代の流れを容赦なく目の前に突きつけられた感じがしました。

女子は男子以上に顔触れが変わった気がします。佳菜子ちゃんや遥ちゃんは残念だったけど、宮原さんや本郷さん、樋口さんと着実に実力を付けてきている選手がたくさん。まだまだ日本の女子は世界に台頭していきそうだけど、それでもやっぱりひとつの時代が終わったのだなと、そう感じずにはいられませんでした。真央ちゃんが出てない全日本に慣れるのはいつのことになるんだろう…←復帰するかもしれないけど
広島の選手である中塩さんも今回頑張りましたね。ショートプログラムは見られなかったので無念。

以下次号。