うさぎパイナップル

主にフィギュアスケートの旅日記とテレビ観戦記とお題記事・ただ書き散らして生きていたい

Diamond Ice 2010④

※この記事は昔書いたものを修正して今更載せています。詳細についてはこちらをご覧ください↓
usagipineapple.hatenablog.jp


我々が赴いたのはダイヤモンドアイス2日目であり最終日。初日に出向いた方の情報から、次がステファンだというのは予想できていました。
アンコールでクレオパトラを滑る安藤さんが見たいのに、どうしても気になって目が選手の待機する入口に向いてしまう(泣)。安藤さんごめんね、彼女に対してすごい失礼だとは思ったけど、その人の姿を見つけてしまったら最後、ガン見せずにはいられませんでした…。

入退場口にぼんやり浮かぶ人影。
暗がりでも見える白い袖。
今日も椿姫なんだ…。
心臓が跳ね上がる。
品のある、けどなんだかかわいいたたずまい。今そこに見えるステファンはたぶん素のステファン。
そして私は見てしまった、素の彼を。

クレオパトラの曲に合わせてくねくね踊ってました!(爆笑)
あの王子みたいな衣装で!(爆笑)
めっちゃ楽しそうなんだけど!(爆笑)

本気で吹き出しそうになるのを懸命にこらえた(笑)。あとで友人たちにそのことを話したら、みんな「かわいいー!」と興奮していました…(笑)
安藤さんの演技が終わった時には拍手を送ってる様子が見えました。てか安藤さんホントごめんね(泣)。

袖に消えていく安藤さん。
会場に流れるアナウンス。
昨日一番会場を盛り上げたのはこの人だった、今日はフリープログラムを滑ってくれます。
てなナレーションに、会場からは悲鳴やどよめきや色々…。

ステファン・ランビエール!」
コールとともに滑り出て来る異国の貴族。ラテン的な魅力もある彼だけど、このプログラムは彼の品の良さや貴公子的側面をクローズアップした、洗練されたヨーロッパの男性らしい、あまりに素敵なプログラムだと思った。世界中の人が心を掴まれるのも無理はない。たとえさっきの踊りが素だったとしても(笑)。

オリンピックでも滑ったフリープログラム、椿姫。
これを生で見られたら、死んでもいいと思ってた。
このダイヤモンドアイスに関しては奇跡的なことばかり起こってるけど、これもまた奇跡だった。

確か演技が始まる前のこの時だと思うけど、我々の席の近くに来た彼に友人が叫ぶ。「ステファーン!」たぶんこの声は聞こえたんじゃないかな、と思う。私はどうにか小さく名前を呼んだだけ。Bさんの手作りスイス国旗も振るのはBさんたちに任せた。正直それどころではなかった。

音楽が始まる。
ランビエールの世界が始まる。
今回はエキシビションとして滑っているが、元々競技用のプログラム。いきなりジャンプを連発してくれる。凄い!クリーンにバンバン決まる!
そして3番目に跳んだジャンプに、息を飲んだ。
あの高さと回転は…
4回転だ!
ショーでも跳ぶとは聞いていたけど、本当に見られるなんて…。
しかもオリンピックの時のようなお手付きでもギリギリの着氷でもなく、かなりクリーン。
ショーが続いて疲れているだろうに…。彼は本当に、全力でスケートをやってるんだ…。胸いっぱいに感激が広がる。
でも私以外の3人は4回転に気付いてなかったみたい(泣)。確かにそう言われると本当に4回転だったのか自信がない(泣)。そもそもお前ジャンプの見分けついてないやん(泣)。てなわけで間違ってるかもしれませんが、素晴らしいジャンプを見せてくれたことは事実なのでそれで許してください(泣)。

さらにジャンプ。優雅過ぎる滑り。高いバレエジャンプ。驚異的なスピン。最早芸術の域に達した、魅惑的な手の表現。夢の世界は続く。
見られたら死んでもいいと思っていた椿姫だけど、その中でも見たかった場面がある。マルグリット(オペラはヴィオレッタだっけ?本は読んだけどオペラは見たことないんですよ)をダンスに誘うかのような、ワインでも手渡すかのような、手を差し出してお辞儀する振付の場面。
それが…、
我々の席側に向いて、やってくれたのだ。
心は彼の手を取って踊り出す。会場のファンは全員そうだったに違いない。

椿姫は悲劇だ。でもランビエールの椿姫は悲劇的なラストまで物語を進めない。貴族の男と娼婦、身分違いの恋。恋が盛り上がり、華やかに踊る舞踏会の場面までだ。まるでステファンが演じているのであろう貴族に思わず差し出した手に導かれるがままに、見ている側も思わず自分が物語の舞台に立っていると錯覚してしまいそうな、そんな演技だ。

乾杯の歌が流れ、ランビエールの世界は頂点に達する。もう素晴らしいという言葉では足りないスピン。まだまだ終わらないで、ずっと踊っていて。そんな願いも空しくフィニッシュへ。ここでまた奇跡が…。
フィニッシュでも、こちらを向いて最後のポーズを決めてくれたのだ!両腕を横に伸ばし、手を上に上げるあのフィニッシュポーズ。大好き。大好きなあの場面までもこちら向きで見られるなんて…。

次の瞬間、立ち上がっていた。散々拍手して手が痛かったのに、そんなの完全に忘れて手を叩き続けた。膝掛けや双眼鏡が足下に転がったけど気にも留めなかった。
我を忘れてスタオベしたなんて、きっと生まれて初めてだった。
なんという素晴らしい椿姫だろう!オリンピックの演技が本調子ではないことは見れば分かった。彼の悔しそうな表情が忘れられなかった。だから今日のこの完璧な演技はオリンピックの苦い記憶を払拭してくれるものだった。何よりステファンが笑顔だったことが嬉しい。まさに一生の思い出になった。これを、これを見られなかった人たちのために、テレビでちゃんと放送してあげて欲しい。こんな素晴らしいものを、記憶だけにとどめるなんて勿体なさすぎる。

もちろん、アンコールである。スタオベだらけ(だったらしい)の会場が黙ってはいない。
アンコールは…
ウィリアム・テル
ショートプログラムの曲だ。このプログラムも大好きで、正直オリンピックの順位は低過ぎると思ってしまったくらい素晴らしかった。衣装も好きなのだが、今日は椿姫の衣装のまま。この衣装でのウィリアム・テルもいいな…。何より、一部だけとは言えウィリアム・テルまで生で見られるなんて!生きていて良かった…。

ステップからアンコール開始だったのだけど…。奇跡は何度でも起こる。ステップに入る前の、腕の動きが印象的な振付。それが…、またもこちら向きだった。この振付の時の表情も好きなので、ここだけは双眼鏡で見る。かわいいかわいいかわいい!なんて楽しそうな顔!
ステップが始まるとすぐさま肉眼に交替。あの蹴り上げステップも目に焼き付ける。もう会場は一体化。凄い凄過ぎる。なんて華やかなのこの人は!
またも我を忘れてスタオベ。ステファン日本に来てくれてありがとう、と呟きながら袖へ戻っていく彼に手を振った。まだまだ続いて欲しいのに、もう時間…。本当にあっという間だった…。

へなへなと椅子に座り込む。力が抜けた体で床に落とした双眼鏡を探す。涙が溢れていることに気付いた。それを拭くこともせず座り込んで今過ごした時間を噛み締めていた。

私は全然気付かなかったけど、会場はとんでもない数のスイス国旗が揺れていたそうだ。それからどうも私は息をするのすら忘れていたらしい。私の息を飲む音や肩で息をする様子が隣のBさんには分かったそうだ。ステファンの演技終了後に一気に力が抜けたわけが分かったような…。
左隣のAさんも泣いていた。今日、ここにいられて良かったね。今これを書いていても涙が出て来る…。

ステファンだけでこの長さ…。またもやいったん終わります…。