うさぎパイナップル

主にフィギュアスケートの旅日記とテレビ観戦記とお題記事・ただ書き散らして生きていたい

All Japan Medalist on Ice 2010⑦

※この記事は昔書いたものを修正して今更載せています。詳細についてはこちらをご覧ください↓

usagipineapple.hatenablog.jp

 

さてお次は男子2位、織田信成。なんだこの衣装(笑)。紫と金と…ううんと、とにかく派手(笑)
演技そのものは、大阪で見せてくれたチャップリンの方が良かったと思うけど、何となく顔つきが精悍になったかなあ、という気がしました。スピンも目の前で拝ませていただきました。
アンコールはショートプログラム吉田兄弟。やったー、これ見たかったんだ!やっぱりこのプログラムかっこいい。織田君にピッタリですね。

続いては浅田真央。練習中のバレリーナをイメージしたというこのエキシビションナンバーですが、横浜の時より何倍も良かった!軽やかで、しなやかで、夢見る少女のようで…。そして何より、真央ちゃんがめちゃくちゃかわいかったんですよ。最近綺麗になったなあとは思ってたんだけど、それを確信した可愛らしさでした。
きっと、大きな課題に挑戦して乗り越えようとして、また強くなったからこそ生まれた美しさなんだろうなあ。素直でひたむきで、いい子なんだろうな…。
アンコールはフリーの「愛の夢」。実は私、この曲が大っっ好きなのですね。だから見られてすごく嬉しかったです。
なんだかこの長野で、真央ちゃんがとても好きになりました。頑張って欲しいです。

インタビューが終わり、次は優勝者の演技ですという高島彩のコメントに、ステファンはゲスト枠でトリなのかな、とぼんやり考えていたら、
「次は海外からの特別ゲストです」と場内アナウンス。
うおおぼーっとしてる場合じゃなかった!(汗)

次なるスケーターがステファンだということがわかった途端、会場の空気ががらりと変わりました。ざわめき。悲鳴。待ち切れなかった観客の上げる歓喜の声。
例の後ろの人物までも「こりゃあ全部持って行かれたな」と文句も言えなかったご様子(笑)。何より爆笑させてもらったのが
「優勝した人みたいだな」
という一言(笑)
…確かにある意味あのスイス人には誰も勝ててなかった(笑)

氷上へと滑り出して来るステファン・ランビエール。リンクの中程でポーズを取った瞬間、あれだけ騒がしかった会場が水を打ったような静寂に包まれる。

音楽が流れ出す。相変わらず、指先から音がこぼれ出しているかのよう。彼のスケートは音楽そのものだ。音楽と演技の一体化。ステファンのスケートにおいて音楽は決してBGMにはなりえない。それはランビエールの世界に溶け込み、ランビエールの世界そのものであるかのように存在する。

元々競技用のフリープログラムだった、椿姫。エキシビションとしてはジャンプの数も多い。最後のジャンプだったかな、ダブルジャンプになってしまったり、4回転にはチャレンジしてこなかったりはしたけれど、彼が世界を極めたスケーターであることを実感させる、しなやかで美しいジャンプを次々と決めていく。
その姿にただ、息を飲む。

マルグリット(オペラは未見なのであえて原作の名前で)に手を差し出すアルマン。アルマンの満面の笑顔はあさってを向いてしまっていたが(大阪ではこちら向きで発狂させていただきましたが)、このアルマンならきっと幸せになったことだろう。
アルマンとマルグリットが踊り出す。ランビエールひとりの体の中に、ふたりの人間が存在するかのようだ。ため息が出る程優雅で軽やかなステップ。ステファンの髪に、指先に、背中に、きらきらと氷のかけらが舞っているような気さえしてくる。本当に、何度でも言いたい。なんて華やかなの、この人は!

声も出せない。ひと時も目が離せない。気が付けば、ステファンは最後の魔法をかけるために我々の目の前にいた。
最後のスピンを、あの世界一のスピンを、我々の目の前で。言葉もなかった。ブラウン管を通しても十分にその素晴らしさは伝わるが、これだけ近くで見たそれは、とても言葉では説明できないくらいの衝撃だった。間違いなく世界一だ。ただそれだけを書いておく。

回転をほどく。水平に伸ばした両手の先を天に向けて、フィニッシュのポーズ。我々の席は真ん中に近かったが、正面ではない。正面のスタンドはカメラのスペースに使われていた。だからなのだろうか、たくさんの客がいる裏側の座席に向かって、演技を終えてくれた。
彼自身も満足のいく出来だったのだろうか、フィニッシュポーズのまま、肩で息をしながら、天を見上げ、陶然とした表情を浮かべるステファン。そのままなかなか挨拶に行こうとせず佇んでいた。僅か数秒の出来事だったと思うが、その時間はまるで永遠のように感じた。そうだ、こんなに近くでステファンを見たことがなかった。常に動いている競技であるフィギュアスケートは、たとえ選手が目の前にやってきたとしてもそれは一瞬だ。でもあの時は、近くにいた観客は、いつも一瞬だけのステファンを、独占できたのである。
これを衝撃と呼ばずして、何をそう呼べばいいのか。今でも幻のように思う。でもあの僅かな時間は確かに存在したはずなのだ。

あんなにカメラを怖がっていたこともすべて吹き飛んでいた。躊躇わず立ち上がり拍手を送った。4分半の長いフリー。たったの4分半しかないなんて!いつまでもいつまでも見ていたい。この時間が終わって欲しくない。ただそれだけだった。

アンコール。「みなさん、ウィリアム・テルも見たくないですか?」というアナウンス。アンコールが無いなんてこの沸きに沸いた会場が黙っている筈が無い。周囲に聞こえるのではないかと思うほど胸の鼓動が強くなる。
リンクに戻ってくるステファン。アンコールはステップから。あの可愛らしい腕の振りに、氷の上を跳ね回るステップ。一日中見ていても厭きないだろう。
しかも、スピンとスピンの間に小走りしながら客席に笑顔を向ける、その時が…
我々の席の前を、通り過ぎる時だった…
理性崩壊。思考回路壊滅。
ただでさえその演技に、「酔いしれる」以外のすべての行動を停止させられているのに、椿姫のフィニッシュとこの笑顔で、私の意識は完全に飛んでしまった。

あの人なんなの。ねえ、本当にあの人なんなの?本当にこれは現実なの?
大歓声。翻るスイス国旗。それすら遠い世界の出来事に感じた。夢の中にいるようだった。今までで、一番。

以下次号。