うさぎパイナップル

主にフィギュアスケートの旅日記とテレビ観戦記とお題記事・ただ書き散らして生きていたい

第68回国民体育大会冬季大会 スケート競技会(ショートトラック・フィギュア)アイスホッケー競技会開始式⑥

※この記事は昔書いたものを修正して今更載せています。詳細についてはこちらをご覧ください↓

usagipineapple.hatenablog.jp

 

私の席から選手の入退場口は対角線上に見えましたが、暗くてほとんど黒い人影しか確認できず。それでも目を凝らして見つめ、その場所に現れる人を待ちます。

静かにリンクに滑り出してくるその人。ステファン・ランビエールウィリアム・テル

朝の靄がかかった空気のようにゆっくりとした前半パート。優雅に、静かに滑るステファン。その柔らかな腕の動きにはますます磨きがかかったように見える。
転調。華やかでテンポのいい後半パート。私の大好きなステップは少し元気がないように見えたけど、リンクが狭かったからかもしれません。フィナーレに向けて盛り上がり続けるスピンは言うまでもなく絶品。
福井で感じた客席と演者の一体感、のようなものは今回はなかったけど、やっぱり最高でした。割と私のいたステージと反対側の方で多めに滑ってくれてましたし。

ああ、東京行きを諦めなくて本当に良かった!私はこのウィリアム・テルがステファンのプログラムのうちで5本、いや3本の指に入るかもしれない、というくらい大好きなのです。もし諦めていたらたぶん10年は後悔してたね。もう一度この目で見られるなんて思ってなかった。本当に本当に嬉しい…!涙が出そうでしたよ。

もちろんスタオベ。こんな遠い席から見ててもやっぱりあなたの演技は最高だわ。
しかし気になったのがスイス国旗。今回はいくらなんでも場違いでしょうよ。でも何枚か確認できてしまったんですよね…。
実は私も一応持参してきていた。いつも持っては来るんですよ、私が出すタイミングを逃すだけで(汗)。でもさすがに今回はやめておいた方がいいだろうと思ってカバンから出しませんでした。
私の前の方の席にも必死で振ってる人いたけど、私は振らなくて正解だったと思っています。いくらステファンが、日本のショーなのにスイス国旗がいつもたくさんでびっくりするとコメントを出していたとしてもだ。ステファンもそれくらいは理解していると思うけど、どうだろうか。

そして最後に荒川静香。プログラムはなんとトゥーランドット!福井で見た時の演技が素晴らしかったので、また見られる!とわくわくしました。
しかし福井の時ほど心に響いてこない。やっぱりリンク狭いのかなあ。それともウィリアム・テルの余韻があまりにも強いからだろうか。
まあ、もしトップバッターだったりしたらもっと感動したのかもしれません。ステファンの後はね、誰が滑ってもこうなっちゃう。うーんもったいない。せっかくのトゥーランドットなのに(泣)。でもやはりこのプログラムは荒川さんの代表作。また見られて嬉しかったです。トリノの女子フリーは何故か京都で生放送見たんだよなあ。早朝から嬉しくてめっちゃテンション上がったのを覚えてます。この時の荒川さん、ホントキラキラしてたよねえ。やっぱりメダルを手中にする人にはそのシーズン中独特のオーラが出るのかな。

オープニングでは赤い衣装だった荒川さん、ここでは青い衣装に着替えてました。プログラムはきっと東京都からリクエストされたのでしょうね。だから、オリンピック招致イベントじゃなくて国体だからね?まんまと見に来てる私みたいなのがいるのもいけないんですけど。いや、私の勝手な想像ですよ。荒川さんが自ら選んだのかもしれないし。

会場の興奮が冷めやらぬ中、歓迎アトラクションはフィナーレへ。ステージの横でずっとスタンバイしていた福島県の高校の合唱団が起立。彼らの歌う「花は咲く」がほの暗いリンクへと流れ出す。

神宮アイスメッセンジャーズと望結ちゃん。美しいシンクロ。歌が2番に入ると、本田君が登場。やっぱり浮気しそう(笑)などとその演技に見とれていたが、次に滑る人が現れた瞬間、そんな浮ついた気持ちは完全にどこかへ吹き飛んでしまった。

ステファンの演技は、素晴らしいという言葉では到底足りないくらいの次元に達していた。その腕が振られるたびに、歌に込められた物語が溢れ出してくるようだった。
フィナーレの振付を担当したのは宮本賢二さんだったそうで、この美しい振付も納得だったのですが、ステファンにも歌詞を英語に訳して伝えた上で振付をしたのかな、と後になって思いました。日本語の歌なのに、何の違和感もなくステファンは、歌の世界を氷上に紡ぎ出していたから。
そのあと出てきた荒川さんのことは一切覚えていない。全員が揃って滑り出しても、完全にステファンのことしか目に入らなかった。とてもとても、とても心のこもった、温かくて優しくて、熱い演技でした。
ああ、私はこれを見るためにここに呼ばれたのだ、そう思いました。涙がこぼれそうになったけど、必死でこらえた。視界を遮られるのがイヤだったから。

この、震災復興のテーマソングとして作られた「花は咲く」という歌は、ただ悲しみに沈むだけではなく遥かな未来まで見据えた、美しい詞だと思います。好きだと思ったことはないけど何故か気になる曲だったのですが、作曲が菅野よう子だというのを知って納得。昔、NHKで何となく見ていたアニメのスタッフロールで流れた曲に衝撃を受けて、アニメをもう一度見ようとは思わなかったけどその曲はどうしてももう一度聞きたくて探し回ったことがあったのですが、その曲の作者が実は菅野よう子だった、という経験があるので。その時探し回ったのは「VOICES」という歌でしたが、その後もたまたまラジオで聴いた曲を探し出したらまた菅野よう子だった、なんてことが何度かありました(笑)。

そんな感じでなんのかんのと好みの曲ということもあっただろうし、福島県立安積黎明高等学校合唱団がものすごく上手で、透明で美しい歌声が氷の世界と歌の世界両方にこの上もなくマッチしていたということも大きかったと思います。

それでも私の涙の理由は、まだほかにありました。それはたぶん、ステファンの熱のこもった演技と美しい歌声が、これまで聞き飛ばしていた、気に留めないようにしていた歌詞を、はっきりと形のある世界に仕立ててしまったから。
1年前に見た夢。とても不思議で、とても温かくて、でもこれ以上ないくらいに残酷だった、あの夢。強制的に現実に引き戻されるように目覚めて、ほのかな朝の光の中で声を上げて泣いた。ありがとう、そうひとことだけ、つぶやいて。
まだ昨日のことのように覚えてる。思い出さない日はなかった。でもできるだけ考えないようにしていたのに。ふとした瞬間に涙が零れることも減ってきて、もう大丈夫かなと思ったのに。
でもこの日のステファンを見ていたら、あの夢の記憶が、忘れられずにいた想いが、あらがいようもなく甦って、とめどもなく溢れ出して…。

この夢のことは自分の胸の中にしまい込んで、誰にも話さないことにしてる。否定されるのも馬鹿にされるのも辛いから。今までに見たどんな夢とも違う、ということだけはわかるけど、わかるのはそれだけで、どうしてあんな夢を見たのか全然わからなくて答えが知りたくて、でも結局は思い込みだと感じるたびに、もう十分に悲しい気持ちになってきたから…。それでもあの時に感じた幸せで温かい感情まで、なかったことにされたくないから。それを覚えているのは残酷なことなのに、忘れた方が自分のためなのに、それでも忘れてはいけない、そんな気がして。
それを改めて誰かに言われたような感じがする。覚えていてもいいんだって…。
これ以上書くと本当に頭がイカれたんじゃないかと思われそうなのでやめておきます。そもそも何も触れないつもりでしたが、自分がこの時のことを忘れたくないのでちょっとだけ書いておきました。わけがわからないと思いますがそれでいいです。ここは読み飛ばしてください。

そんな自分の個人的な思いが存在しなかったとしても、私は間違いなくステファンの演技に涙していたと思う。この演技を見逃さずに済んで本当に良かったです。
ありがとう、ステファン。あの時と同じ言葉を、今ここであなたにも言うよ…。

以下次号。