うさぎパイナップル

主にフィギュアスケートの旅日記とテレビ観戦記とお題記事・ただ書き散らして生きていたい

シリーズ・間黒男氏を主役とする一連の物語が如何に好きであるかを語る・第2回(実質第3回)←やっぱりまわりくどい

手塚治虫先生の残した傑作『ブラック・ジャック』の好きなエピソードについて勝手に語るシリーズ、実質第3回。ある意味今回からが本格的なスタートです。誰も気にしちゃいないでしょうが(笑)、まあついでだと思って最後まで読んでやってください。

今回取り上げるのは、秋田書店少年チャンピオンコミックス版第9巻に収録されている「犬のささやき」。
私は3本の指に入るくらい好きな話なのですが、3本の指のうちいちばん同意を得られないのがおそらくこれなので、いの一番に挙げてみます。って、「六等星」はもう挙げたから2番目か。誰も気にしてないって?まあそうでしょうけどさ(泣)。
核心には触れないように気を付けますが、どうしてもネタバレありありになってしまいますので、気になる方はこの辺りでUターンをお願いします。ネタがわかると衝撃度が薄れてしまうタイプの話ですので…。

裕福な家の息子だと思われる青年。彼には美しい恋人がいましたが、彼女は電車の事故で亡くなってしまいます。青年は恋人の死を嘆き悲しむあまり、恋人の飼っていた犬に恋人の声を喋らせることを思い付き、ブラック・ジャックに手術を依頼するのですが…。

というのが序盤の展開。この時点で青年の身勝手さは滲み出ているのですが、それは物語が進むにつれて救いがたいものになっていきます。
ただ、心底悪人ではないのですよね、この青年。単に、ブラック・ジャックの言うとおり「アホ」なのです。しかし、それで振り回される犬はたまったものではありません。
ペットは飼い主が好きなのです。本当に純粋に好きでいてくれる。犬もこの青年が悪人ではないことを知っていたのでしょう。それだけに、どんどん冷遇されていく犬の姿は痛ましいものがあります。
そしてそれは、あんなにも嘆き悲しむ程愛していたはずの恋人を、あっという間の心変わりで忘れていく、その過程と重なる。ここで「犬が恋人の声を喋らされている」という設定がこの上もなく生きてくるのです。そしてそれこそが、ラスト2ページを非常に恐ろしく、切ないものに仕立てている。「人間のエゴ」をテーマにした話は『ブラック・ジャック』には散見され、傑作も多いのですが、それを漫画ならではの効果的なセリフの使い方と展開で痛烈に皮肉ったこの作品は、凡百の作家が一生に一度書けるかどうか、というレベルの傑作だと個人的に思っています。

ただ、非常に、ひっじょーにブラックなのですよねこの話。傑作という呼称は感動的な物語に付けられることが多いので、この作品が大好きだと声を大にして言いづらいところはあります…。ですが、この巧みな構成は見事としか言い様がなく、感動を消費する以外の物語の楽しみ方としては極上の部類に入る作品だろうと思っています。でも、初見ではそうは思わないかもしれないですね。何度か読み返しているうちに見えてくると言うか。

ブラック・ジャック』において動物が物語の中心として登場する話は名作が多く、涙なしでは読めない、というものがほとんどなのですが、救われない話もまた多く、トラウマになって読み返せない話もいくつかあるほどなので、ブラックとは言え救われない話とは言えないであろうこの作品は、個人的に安心して読める動物モノだったりします。いやホント、「ナダレ」とか無理…。あれはマジで無理(泣)。

ブラック・ジャック先生はあまり出番がない上大した活躍もしていないのですが、それでもこの物語が『ブラック・ジャック』のエピソードのひとつとして描かれているということについては、最後まで読めば納得できるのではないかと思います。いちばん最初に読むのではなく、数冊単位でほかの物語を味わってから読むといいかも。って、ここまで読んでくださった方は既読の方かな。皆さんのお好きな話はどれですか?