うさぎパイナップル

主にフィギュアスケートの旅日記とテレビ観戦記とお題記事・ただ書き散らして生きていたい

「良作に見せかけたクソゲー」の主人公ではなく「堂々としたクソゲー」の主人公として生きることにした

就職のために実家を離れたあの時が、自立への第一歩だったのだと思う。

家族を嫌っていたわけでも憎んでいたわけでもないけれど、どこか「自分だけ浮いている」と感じていた幼い頃からの日々。いじめ、貧困、折れる心。嫌な思い出しか浮かばない、どうしても好きになれなかった、長年住んだあの街。

離れたかった。どうしても。
今も心は変わらない、何一つ。
あの街には、絶対に戻りたくない。
あそこにいたら、私は必ずダメになる。
谷底でもがいていてもどこかに希望が見える今と、「ここから離れなければ絶対に無理だ」と谷底よりもっと暗いところにいたあの頃とでは、よく似ているようでまったく違う。


生活の維持の方法や家事を覚えた、そういったこと以上に、ひとりで暮らしはじめて私は本当にたくさんのことに気付いた。
普通の人が、ごく当たり前に貰ってきたものを、私はほとんど貰ってこれなかったこと。
皆が当たり前だと信じているものと、自分が当たり前に過ごしてきた環境とがあまりに違うこと。

自分のペースで、自分の意思ですべてを行える生活は、長年鎖に縛られていた私の心をとても軽くした。
家に戻っても他人と言葉を交わせない日々は寂しくもあったけれど、心を蝕むほどの他者への悪意や罵倒する言葉が流れてこないだけで、そういったものに怯えて隅っこに隠れていた小さな私がやっと自由に顔を出せるようになった。その方が私にはずっと大切だった。
6歳くらいで止まってしまっていた私の心の時間が、あの時やっと流れ始めたように思う。
実家で暮らし続けることで得られたものもきっとたくさんあったけれど、でもその生活を続けることで、私はきっと諦めなくてもいいものまで勝手に全部諦めることをやめられずにいただろう。それは長い目で見れば、どこかで必ず破綻を招くものだった。


だが同時に、強い欲求が私を縛った。「普通の人間になりたい、普通の生活がしたい」という強い欲求。そうでなければ人間として認められない、と思ってきた心の爆発。
どこかで気付いていたのだ、自分は安定したレールに沿っては生きられない。破壊的で、不安定な人間だと。だからこそ、「普通の人間として認められる枠」の中にはまりこんでいなければ、すぐに破綻してしまう。破綻した人間に猶予を与えてくれるような恵まれた環境は私にはない。いや、それは恵まれているのではなく、「普通」の環境だ。それすら持てない私は、まずその最低限の「普通」を目指すしかない。
幼い頃から「たぶんあなたには無理だよ」と囁く自分の声を無視して、「きちんとした立派な、生活に困らず自立して暮らしている人間」を目指してきた。実際、その生き方の方が絶対に楽だと思う。今でも戻れるなら元のレールに戻りたいとどこかで思っている。

だけど不思議なくらい、ただ目立たずにひっそりと、ごく普通に生きていたい、という私の願いは崩壊してしまう。やっと手に入れたささやかな生活は、まるで「強大な敵の登場で敗北し無力さを感じて逃走する主人公」というお定まりの物語のように、幻のように消えていってしまう。あとに残ったのは、ぼろぼろに壊れた心と暮らし。

こんなことを繰り返していても、待っているのは取り返しのつかなくなった未来だけだ。


ひとつの小さなきっかけが、最終的に私に決意をさせた。
「普通」にこだわることをやめよう。うまくいかないかもしれないけれど、レールから外れて、自分の心の向くままに生きてみよう。

不安と恐怖で押し潰されそうだけれど、憧れた普通どころか「どうしようもなく深い谷底」でずっともがいているけれど、全然自分の足でなんか立てていないけれど、でも私は今やっと、自分の人生が本当に始まったような気がしている。
「守ってもらいながら大人になる」はずの道程を、私は自分で自分を守りながら人より何十年も遅れてやっと歩いたのだ。同級生が何十年も前にとっくにたどり着いていたところに、今やっと到着したような気がする。そんな人間が「普通になりたい」と思っていたことが今さらながら可笑しいけれど、それが私なんだ、と諦めたところから本当に自立が始まるのである。


主人公はそもそも、本当はまったく違うゲームの主人公なのに、バグで別の物語に紛れ込んでいたのであろう。そりゃ、敵に勝てるわけもない。元のゲームに今さら戻って主人公になったはいいものの、せっかく集めたアイテムもレベルアップも、ゲームが違うのでリセットされている。今の主人公は「やたら親切な最初の街の人」のくれるアイテムやタダで泊まれる宿屋システム等、いつか遠く遠く離れた街へ戦いへ赴いた時には利用しに戻れない、親切設計の元にどうにかへろへろとレベル上げにいそしんでいる。
そして主人公は気付いてもいる。今まで戦ってた世界、一見面白そうだしいいレビューもついてたけど、きちんと遊んでみるとセリフにセンスもないし街の人は冷たいしゲームバランスも悪い。私に売られたソフトだけバグってた可能性もあるけど、実はクソゲーじゃないかよ。今戦ってるこのゲームもたぶんクソゲーだけど、やり込まなければ気付かない深みや製作陣の愛情が感じられる隠れまくった名作、かもしれない。
そうだよ、私はそもそもそんなクソゲーが大好きだったじゃないか。「そんなクソゲー遊んでておかしい」って周囲は言うだろうし、クソゲーだから突然猛烈なバグで進まなくなるかもしれないけど。とりあえずレベル1なのに敵も強すぎるしクソゲーには違いあるまい。でも絶対ゲームオーバーにならない謎の救済措置があるような気がする。間違って主人公を張ってたゲーム、そう言えばゲームオーバーになってもロードできなかった。ゲーム中に出たパスワードも間違ってたっぽい。やっぱりクソゲーじゃないか。まあ、今遊んでるこれもクソゲーかもしれないけどね。

新たなクソゲーの主人公としてリスタートした私は、最初の街からの自立と次の街とを目指す道中である。主人公の職業は「ライター」。勇者でも戦士でもないこの主人公は店に使える装備も売っていなければ、そもそもレベル1なので金貨もろくに持っていない。無限宿屋も突然休業するんじゃないかとびくびくしている。何せクソゲーですからね。って宿屋休業したら死んじゃうからやめてえええ!
しかし、いつか魔王を倒したら、最初の街の人々に金貨や宝物や冒険の話を山ほど抱えて会いに行きたい、と夢だけは見ている。実際は、今日もザコに倒されて無限宿屋のお世話になっているのだけれどね、最初の街で。


#わたしの自立

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