うさぎパイナップル

主にフィギュアスケートの旅日記とテレビ観戦記とお題記事・ただ書き散らして生きていたい

花吹雪で埋まる空は君の瞳を待っていたのに

今日は別の記事を載せる予定でしたが、急遽差し替えます。なかなか記事を書く気力もわかず、少し悩みましたが、やはり今の想いを残しておこうと思いました。それがブログというシステムの利点だとも思うので。

いつも読んでくださっている方も、今回たまたまこの記事を見つけてくださった方も、おそらく皆さんフィギュアスケートのファンの方であろうと思います。なので皆さん既にご存知だろうと思います。

アイスダンスの日本代表として長年活躍していたクリス・リードさんが、亡くなりました。30歳。まだ、30歳でした。

それが正式な発表であり、スケーターたちの悼む言葉が冗談でも何でもないことは、一目でわかった。頭はすぐに理解したのです、それが事実だと。
それでも、何が起きているのかわからなかった。頭の半分は冷静に事実を追って整理しているのに、頭の半分はまったく動かなくなって文字も写真も映像もそれが何なのか認識できないような感覚でした。その矛盾するふたつを同時に処理できずに、拒否反応みたいに涙が溢れてきている、無理に表現するとしたらそんな状態です。


クリスを知らない日本のフィギュアスケートファンはおそらくほとんどいないと思います。地上波で放送されていたら時々見る程度の一般視聴者であれば、放送の機会の少なかったアイスダンスの選手であるクリスが記憶に残っていない人も多いかもしれませんが、フィギュアスケートにある程度の興味を持ち、わざわざファンだと名乗る程度になれば、知らないままで過ごす方が難しいでしょう。

それほど、長く活躍していた選手でした。オリンピックにも3大会出場し、特に平昌オリンピックでの坂本龍一の曲を使用した素晴らしい演技は印象に残っている人も多いのではないでしょうか。
オリンピックの団体戦や2年に一度の国別対抗戦に日本が国として出場できたのは、クリスと、彼のパートナーだったキャシーと村元さんが努力を重ねていたから、そう言っていいと思います。どれだけ放送の機会がなくても、話題に上らなくても、彼らが日本代表として競技に打ち込んでくれたから、我々は賑やかな応援席の様子や素晴らしい演技の数々で楽しませてもらえたのです。

日本のアイスダンスは、にわかに盛り上がりを見せています。素敵な選手たちが次々と現れ、男子シングルの花形選手だった髙橋大輔のアイスダンスへの転向も大きく注目を集めました。今後、アイスダンスに対するメディアでの扱いはおそらく変わっていくでしょう。
その結果に至る道を切り開いていった人物のひとりは、間違いなくクリスです。

村元さんとのカップルを解消してからのクリスの動向がなかなか掴めず、ずっと心配していました。彼の口から現役の引退と、指導者としての今後が語られたのは、つい最近のことです。いい風が吹いてきたのであろう日本のアイスダンス界を導き、押し上げていく貴重で重要な人物になるのだと、疑ってもいませんでした。

それなのに。
それなのに、今、奪ってしまうのですか。神様。
オリンピックの氷上を満開の桜で埋め尽くしてくれた人を、日本の春が桜の色でいっぱいになる前に、それもほんの少しだけ前に、その美しい空を見せることなく、奪ってしまうのですか。


クリスに二度と会えなくなった要因として挙げられていた名称は「心臓突然死」でした。時々、まだとても若い人に突然二度と会えなくなることがあるけれど、同じ原因だった人もその中にいたのかもしれません。

予測することも予防することも出来ないことだったのでしょう。人間の命を本当に平等に扱うのは神様だけです。どんなにいい人だろうが悪人だろうが、どうしても必要な人物であろうが嫌われ者であろうが関係ない。神様のルーレットがたまたま指した人物を、容赦なく連れていくだけ。
昨今のウイルス騒動で、人間の命をひとつ残らず大切であるとする理念を掲げた社会的存在である「人間」と、自分の命さえ無事ならそれでいいという本能を剥き出した生物そのものである「人間」とが交錯する様を延々と見せつけられているような気がしています。私のような脆弱な人間が改めて人間に絶望するにはそれだけで十分な程に。
このあまりにもショックな出来事で、人間はどこまで行っても神にはなれず、その資格もないのだと、改めて突きつけられたように思います。

人生は必ず終わる。その運命から逃れることは誰であっても出来ない。ただ、その時期が何時になるのかはそれぞれで、知らされていないだけ。
クリスはそれが今だった。それだけのこと。それだけのことなんです。
それだけのことであっても、感情がそれだけを追うことは時に非常に難しい。ただのファンである我々がこれだけ難しいと感じるのだから、クリスのご家族やお友達、仲間たちはどれほどに…。何より、これからの夢を溢れるほど抱いていたであろう本人が、どれだけ悔しいか。

この質問に意味はない。意味はないとわかっていても、尋ねずにはいられない。
何故。神様、何故。


私が最初に会場に足を運んでクリスの姿を見たのは、2010年に開催されたダイヤモンド・アイスでした。そして、最後に会場で見守ったのが、2017年のNHK杯。これを書きながら、2冊のパンフレットを並べて、呆然としています。
会場に足を運び、この目で彼とそのパートナーの演技を見た回数は、決して多くはありません。それでも、放送の機会の少ないアイスダンスに触れられる貴重な時間は思った以上に色濃く、これだけしか生で見たことなかったのか、と驚いています。

私は村元さんと組むようになってからのクリスの滑りがとても好きでした。オリンピックシーズンのフリーダンスは本当に美しいプログラムだった。今も目を閉じると、リンクの天井に舞う桜吹雪の幻が見えるようです。
天井に近い席からだったけど、NHK杯であのプログラムを、たったの一度だけでも直接この目にすることが出来た運命の巡り合わせに、こんな形で感謝はしたくなかった。したくなかったです。

うわあ、クリスってこんなにかっこいい人だったんだ、とびっくりしたエピソードもあるのだけど、ここに書くのは止めておきます。本当は書き残そうかと思っていたけど、やっぱり自分の胸にそっとしまっておこうと思います。

記憶を辿っても辿っても、思い出すのはニコニコしながらインタビューを受けていた立ち姿ばかり。そればかりなんです。私はクリスの優しい佇まいがいちばん好きだったのかもしれない。


思った以上に衝撃が強かったのか、ニュースを知ってからしばらくして、うまく息が出来ない感覚にとらわれて、昨日はちょっとしんどかったです。私はどうも、ギリギリまで自分の心に蓋をして我慢してしまうようで、ある日糸が切れたように何も出来なくなったり、突然息が出来なくなって職場で倒れたりしてやっと気付くパターンを繰り返してきたように思います。ただ、それが起きるのは基本は仕事に関連してだったので(それだけ社会に馴染んで生きていくのは私には難しいのです)、こんな形で出るなんて、と自分でもショックでした。
長期化する生活苦と孤独。たぶん、私は自分では気が付かないうちにギリギリの状態に追い込まれていたのでしょう。そこにたまたまスイッチが入って、一気に限界を迎えてしまったのかもしれない。

私は勝手にショックを受けただけの無関係な人間で、本当に辛いのは当然私じゃない。そう言い聞かせて何とかしようと思っていますけど、頭がぼんやりしてくらくらして、音や文字が素通りしていく。

せめて世界選手権が開催されていれば、追悼の場も設けられたし、ファンはもちろん、何よりも関係者の皆さんのやり場のない気持ちを新たに生まれる素晴らしい瞬間に託すことも出来たのだろうと思うと、やりきれない。やりきれないでは済みません。


ごめんなさい、上手くまとまりませんでした。私にはこの行き場のない想いを文字にするのが精一杯です。文字にすることでしか本当に事実を認識できないような気がします。誰も救えない、ただ自分のためだけの文章になってしまってすみません。

我々に出来ることは、クリスを覚えていること。彼が情熱を傾けたフィギュアスケートをこれからも愛し、応援すること。そして、可能な範囲でいいから、後悔しないように生きること。
長い間会っていない人がいるのなら、今日は連絡を取ってみるのはいかがでしょうか。明日があるから、次があるから、そう言っていたらもう、二度と会えないかもしれない。声が聞けなくなるかもしれない。その時にどれだけ後悔しても間に合わないのです。大会やショーやイベントが中止されても、私たちには言葉があるのだから。

クリスはこれからも、当たり前のようにキスクラやリンクに居るのだと思ってた。けど当たり前のようにクリスが居る世界は、もう何処を探しても存在しなくなってしまった。
受け止めるしかないけど、受け止めるのは今はまだとても難しいです。ごめんね。私はこれからもきっとフィギュアスケートのファンだと思います。ふとした瞬間にあなたの姿を思い出して涙することもあるかもしれない。そのときはどうか、許してください。私にアイスダンスの楽しさを教えてくれてありがとう。ありがとう、クリス。ありがとう。書けることはほかにたくさんあるはずなのに、その言葉しか浮かんできません。言葉を覚えたばかりの幼子みたいに。

ごめんなさい、やっぱりまだ、涙が止まりません。止め方が、わからない。



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