うさぎパイナップル

主にフィギュアスケートの旅日記とテレビ観戦記とお題記事・ただ書き散らして生きていたい

何も残らなくてもいい、君が隣に居るのなら・はてな版

今週のお題「一気読みした漫画」


本日の記事はnoteからの再掲です。何故か最終回だけ読んだことがあって、どうしても話が気になって古本屋を探し回って集めて一気に読みました(笑)。ここ1年ほどの世の中を彷彿とさせる漫画でもありますので、はてなの方でもご紹介させてください。
以下、加筆修正せずに載せてみます。元の記事は2020年の7月16日に掲載しました。

昨今の感染症による騒動を見つめていると、つい思い出してしまう作品があります。

その作品のタイトルは『D』。作者は洞沢由美子さん。掲載誌は『アニメージュ』。懐かしいな、子供の頃に一時期買ってました。GガンダムとかガンダムWとかね、好きでしたね(笑)。
コミックスは徳間書店より発売されており、全3巻です。

以下に感想を載せてみます。できるだけ配慮しましたが、もしネタバレになってしまっていたらごめんなさい。


昭和63年の日本。突然人類を襲った謎の伝染病により、人々は次々と死に至ります。電気も水道も止まった、至るところに死体の転がる街。何故か伝染病に罹患しなかった主人公のつかさと、生き残ったわずかな人々は、命が死に絶えた世界で生活を営んでいくことになるのですが…。

ものすごく大雑把に説明するとこんな感じのストーリーでしょうか。伝染病が蔓延し、動く人の姿が消えた街。もっともっと穏やかなものではあったけど、まるでこの春の出来事のようです。

連載は1987年から1990年にかけてのことだったようなので、まさにバブル真っ只中の時代でしょうか。モノが溢れるバブル期の東京というだけでも、どことなく既にSFです。田舎の子供にとって、当時の東京なんてテレビの向こうにしかない、完全たる異世界でしたから。

その東京から生きている人間がほとんど消えてしまう。絶望的な状況のはずなのに、登場人物たちから悲観的な空気はあまり感じられません。
店に行けば洋服や食糧はいくらでも手に入る。異性の前ではお洒落もしたいし、恋心が芽生えることもある。若者たちにとって、ライフラインが止まりほとんどの人が死に、学校や社会規範等の様々な制約が無くなったというだけで、日常は当たり前に続いていくのです。その「非日常の中のリアルな日常の描写」が、この作品の最大の特徴だろうと私は思っています。

作中にはよく食事のシーンが登場するのですが、これが何だかとてもリアルなんです。食べることは生物が生きていくための基本であって、それは世界が滅びようと変わらない。
ほとんどの人類が死に絶えたことによって金銭の概念は失われ、人類が残したものはみな、生き残った彼らのものとなる。死体の転がる街で、つかさたちは食事を楽しみ、お洒落な洋服や音楽に喜び、お風呂に入って眠り…。

非常に刹那的で、虚無的でありながら、実に地に足がついている。何となく、女性の感性でなければこの作品は描けなかったのではないかと思います。まるで、主婦がその日の夕食の献立を考えているかのような、淡々とした生活の描写。失われたはずの日常が、当たり前のように続く世界…。
漫画以外では考えられない舞台設定のはずが、本当に人類がほとんど滅びてしまっても、生き残った人々は案外その状況に順応してしまうのではないかと思わせます。きっと、伝染病の原因よりも、生き残った理由よりも、とにかく生活していくことを考えることになるのだろうと。生きるということは結局、安心して食べることと眠ること、まずはそれからなのだと。

作品に登場する、二人の女性の描写もまた印象的です。女性が抱える肉体の「重さ」と精神の「強さ」。肉体や状況の変化とともに変わっていく心の在り方が何だかとてもリアルに感じられて、子供心に自分が将来辿る人生を想像してみたりしたものです。
物語の後半、二人の女性が話し合うシーンで、片方の女性が涙を流しながら口にする台詞は胸に突き刺さります。その台詞がどんなに切ないか、それは女性に生まれなければ決して気が付かなかったことかもしれない。
「女性」とは何に根拠を置く概念なのかと、ふと思い至らせる作品でもあります。それは作品におけるある重要なポイントとも結び付いているのです。

何故彼らは生き残り、どうやって生きていくのか。タイトルの『D』の意味とは…。約30年前の作品ですが、達者な絵も内容も古さを感じさせません。悲惨な状況でありながらどことなくさっぱりと洒落た雰囲気が漂うのは、絵の魅力によるところも非常に大きいです。

初めて読んだのは小学生か中学生の頃だったでしょうか。作品が私に与えたインパクトは大きく、今も忘れられない漫画です。
もし本当に人類が滅びてしまったら、その世界に生き残ったなら…。子供時代に一度は考えてしまいそうな妄想に、この作品はひとつの可能性を示してくれる。
大好きな人と二人だけで生き残ったら?いや、アイスクリームもポテトチップスもない世界で生きていける?そんなことをぐるぐる考えてしまう。絶望的な状況にも関わらずまずそんなことを考えてしまう。人間は結局、自分の小さな世界の周辺だけで生きているのだと実感してしまうのです。そして、一人で生きていくことはできないのだと。

少々マニアックな作品にあたるのではないかと考えられますし、30年前の作品ですので入手は困難かもしれませんが、もしご興味を持たれた方は是非読んでみてください。むしろ、今のこの時だからこそ、読んでいただけたらと思ってしまいます。

ぐるぐる考えた結果、私の出した答え。
『D』の世界と同程度の生活が保てるならば、ポテトチップスもアイスクリームもなくていいから、大好きな人が生きて自分の隣に座っている未来を私は選ぶでしょう。
幼いながら様々なことに遭遇し、将来はひとりで生きていくのだと固く誓っていた、強がりだった少女の自分が、ただの女の子でしかなかったことをいちばん最初に実感させたのが、この漫画だったかもしれません。そういった意味でも、忘れられない作品なのです。


元の記事はこちら↓
note.com



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