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うさぎパイナップル

ただ、書くことが好きなだけです。

誰かの憎いものは誰かの愛しいもの①

ひとりごと

このところ世間を賑わせているとある話題を見ていると、思い出すことがひとつ。

ずっと昔からの知り合いがいます。子供の頃からの知り合いです。さすがにきっかけは忘れてしまいましたが、確か彼女の方から話しかけてきてくれたんじゃないかなと思います。

彼女は独特な人でした。そのキャラクターの濃さについていけず、喧嘩になったことも何度もあるのですが(だいたい私が怒ってたと思う…)、疎遠になったはずがいつの間にかまた一緒に遊びに行っているという、私にとっては不思議で貴重な存在でした。疎遠になった人はもうそのままいつまでも疎遠、というパターンの方が圧倒的に多いからです。集団に溶け込むために道化を演じていると(それも確実に私自身ではあるのだけど)、いざ本音という牙を剥いた時はあっという間にそっぽを向かれてしまうんですよね。でもそれって私を一個人として認めてくれてなかったってことだよな…。そうやってバサバサ人を切り捨てていって、結局何が残るんだろう。

確かに彼女は付き合いやすい人とは言い難かったと思います。「あの子はどうも言っていることが幼い。お前とは合わないんじゃないか」と家族に言われたこともありますが、たぶんその指摘は正しいと思います。実際、真剣な話をする相手ではなかったです。イライラさせられたことも数え切れないほどあります。嫌なことも言われました。間違いなく私とは合いません。でも、あまり深く考えずに、買い物したり美味しいもの食べたり、趣味の話で盛り上がったり、そんなことに彼女はよく付き合ってくれたし、楽しい時もたくさんありました。変わった人だけど、悪い人ではなかったです。それがわかっているからこそ、彼女を無下にすることはできませんでした。お互い大人になってからは、特にそう思っていました。

でも、いつの頃からか、彼女の話にはある話題が含まれるようになりました。
この日本には、特定の国の人を異常に敵視している人間が少なからずいるようです。自分の周囲にもたくさんいます。初めに申し上げておきますが、私はそのような考え方の人たちが大嫌いです。どんなに立派な振りをしていても、そのような思想が見え隠れした時点で、私の中でのその人の評価は地に落ちます。どのような思想の持ち主であろうと個人の自由ですが、それでも嫌いです。何故嫌いなのかについては今は触れずに話を進めます。
彼女は、その思想にとりつかれてしまったようでした。女性の場合、家族や恋人などの近い関係の男性にそういう考え方の人間がいると、染まってしまうことが多いように感じます。自分の国が大好き過ぎる人と大嫌いな人とに分かれますが、熱心にそういう話を語り出す彼女たちの後ろに、父親や兄弟や伴侶の姿が見えるのです。もちろん絶対ではないですけど、印象として。だから女はバカだって言われるんでは、と正直思ってしまいますが、それはそれとして。

この国の製品は買うな、この国の人間は嫌いだ、この国の物は嫌だ…、いかにも自分は正しいとでも言うような態度で、しかも嬉々として、彼女はそんなことばかり言うようになりました。政治の話などもしていましたが、何となく引っ掛かるものがある内容ばかりでした。どうせ家族の受け売りか、インターネットに書かれていることを疑いもせずに信じているだけだろう、と思いましたが、私は自分がそういう思想の人間が嫌いだということを黙って彼女の話を聞いていました。もちろん同意はせず、適当に聞き流してはいましたが。どのような考え方の持ち主であろうと、それは本人の自由なのです。自分がその手の話を我慢しさえすればいいんだ、と私は思っていました。

でも、ついに堪忍袋の緒が切れる瞬間がやってきました。
ある日の買い物帰り、夕食を取りに入ったレストランで、それは起こりました。その頃私はある国へ旅行に行きたいという家族のために情報収集をしていました。結局家族の話がまったく現実的でなかったことがわかり頓挫したのですが、その時はまだ情報収集の段階でした。その話を彼女にすると、案の定、ぶつぶつとケチをつけてきました。自分はそんな国へ行きたくないとか。いやあんたのこと誘ってないですし。あなたのこと思ってアドバイスしてあげてるの、とでも言い出しそうないつもの態度に、私の忍耐ゲージはついにゼロになってしまいました。
家族と楽しく旅行へ行こうとしてるだけなのに何でお前の一方的な思想を押し付けられなきゃなんねーんだよ。いくら個人の自由とは言え、他人にその思想を強制した時点でそれはたちの悪い宗教やら何やらと一緒で、この上なく迷惑だ。いい加減にしろ。

お前何度そういう話すれば気が済むんだ。人種差別がどんなに情けない行為かわからないのか。もう自分の前でそういう話をしないでくれ。
てなことを、できるだけ彼女にわかりやすく伝わるように怒りながらも話したと思います。…彼女は気が付かなかったと思いますが、彼女の後方には彼女が嫌っている国の方ではないかと思われる集団がいたのです。お祝い事の帰りだったのではないでしょうか、幼い子供もそこにはいました。せっかくのおめでたい席なのに、こんな馬鹿馬鹿しいことで気分を害されるなんてあまりにも申し訳なかった。その人たちに聞こえないよう(彼女は声がでかいのです…)彼女がそれ以上そういう話をしないように釘を刺したつもりでした。

彼女は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていました。私に反論されるとは思ってなかったのでしょう。何せいいことをしているつもりだったでしょうから。私は一度も同意してませんけどね。
そして、当然のように自分の意見を曲げることもありませんでした。以前仕事でその国の人に嫌な目に遭ったから、自分の考えは変えられないと彼女は言っていました。でもそれは言い訳だろうと思います。きっと本当にそういうことはあったのでしょうけど、具体的な話を何一つしないからです。わかって欲しいなら情報は出すべきですがそれをしない。おそらくそれがきっかけではなく、彼女はその時点で既に偏見を持って相手に接していたのではないでしょうか。すべて想像ですけどね。
そもそも彼女の話が本当だとしても、それはその人本人の問題で、嫌な奴は何人だろうが関係なく嫌な奴のはずです。むしろ日本から出たくないと言う彼女の周囲はほぼ日本人なのだから嫌な思いをする相手は圧倒的に日本人の方が多かったはずです。それを相手の国籍のせいにして、特定の国をまるごと蔑むレベルにまで拡大解釈するということは、そもそも彼女の頭に差別意識が最初から存在していたのだろうと私は思います。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、とは言いますが、袈裟どころか坊主の所属や故郷まで全部憎い、というレベルにまで達するにはその坊主がとんでもなく嫌な奴でないといけないでしょうし、たとえそうであっても少なくとも坊主の故郷とは何の関係もありません。坊主はたまたまそこに生まれただけです。坊主を育てた風土にも何かしら特徴があったのかの知れませんが、そこまで考え出すなんてどれだけ坊主に執着してるんだ、何だお前坊主が大好きなんじゃないか、って逆に思っちゃいますけど。

彼女は昔からそうでした。今自分がハマっているものについてはガンガン人に布教する。実際面白かったので自分もハマると、その時にはもう飽きている。他人の趣味には「興味ない」の繰り返し。「興味ない」はごく普通の会話において使っちゃいけない言葉の筆頭だと思います、個人的に。ものすごく強い否定だと思います。しつこい勧誘を断る場合ならともかく。
大人になってからはそういう部分は鳴りを潜めていたように感じたのですが、根本的には変わっていなかったのでしょう。そのうちまた飽きるだろうと受け流していたのですが、残念ながら私の予想は外れたようです。漫画や洋服の話ならまだ我慢できたのです、あくまでも趣味の範囲ですから。でも、彼女の得意な一方的な布教が差別的思想に及んでしまった今、それを受け入れるわけにはいきませんでした。

それきり彼女とは会っていません。2回ほど連絡しましたが、無視されました。彼女はわけのわからない言い訳をして平気で返事をよこさないのですが、それでもそのうち返事してくれるし、返事をする努力を最初から放棄する心底アレな人ではなかったので、気長に待ってみましたが、今度こそダメだったみたいです。私ももう疲れたしうんざりしてましたが、彼女がそういうことを言い出さなければ今まで通りで構わないと思っていたので、私が嫌だとハッキリ意思表示した真意を汲み取れない、つまりもう彼女は戻れないところにまで行ってしまったんだな、と解釈し、連絡を断つことにしました。
絶対自分を曲げないのは昔からでしたし、そういう部分は彼女の強さでもありましたが、それは自分の世界しか見ていないからこその強さでもあったと思います。彼女は自分が快適なものにさえ囲まれていれば他人なんてどうでもいいのです。お前は文句ばかり言う、とよく言われましたが、文句と意見は別物ですし、実際に文句ばかり言っていたのは彼女でした。自分は間違ってるかもしれない、と立ち止まって考えることのない人間は強いです。絶対に折れることはないでしょう。でもその代わり、その周囲の人間の心が折れているかもしれません。それでも彼女は真からの悪人ではなかった。人間なんぞ皆黒いものではあるけれど、計算による黒さが彼女には少なかった。確かに彼女はいつまでも幼かったけど、でもその裏表のなさは安心できる要素でもあったのです。
こんなくだらないことで長年の友情が終わってしまうとは、実に情けないし悔しいことだと思います。もう取り戻そうとは思わないけれど。

長くなったので、明日に続けます。