うさぎパイナップル

主にフィギュアスケートの旅日記とテレビ観戦記とお題記事・ただ書き散らして生きていたい

タイムカプセル、さもなくば遺す言葉

はてなブログ5周年ありがとうキャンペーンお題第2弾「5年後の自分へ」
http://blog.hatena.ne.jp/-/campaign/hatenablog-5th-anniversary


平昌オリンピックの勝者は誰だったのだろう?今はその次のオリンピックの代表がどう決まるのかやきもきしている頃だろうか。東京オリンピックも無事開催されただろうか。
あなたはそれらの出来事を、この世に在って見届けたのだろうか。
そして、狂おしいほど抱き続けていたあの願いは、今あなたの腕の中にあるのだろうか。

あなたが裏表のなくあけっぴろげな性格だと思っている人は多い。確かにそれはあなた自身で、おそらく生まれ持ったあなたそのものなのだろう。
でも、あなたの背負った荷物は重かった。あなたの周囲の誰もが、あなたよりも軽く、それも誰かにその荷物を預けてしまいながら揚々と山道を登って行くのを、唇を噛みながら眺めていた。荷物が重すぎて一歩も歩けなくなっても、山の上から声が聞こえるだけで、誰もあなたに手を貸そうとはしなかった。そんな道程では、本来のあなたは死んでいくだけだった。
どうにか歩ける時には、誰かと話をしながら山道を登っていたが、あなたのその重い荷物の話は誰も好まなかった。だからあなたは話すのをやめてしまった。表面的には楽しいけれど、何の意味も価値もない歌を歌いながら、明るく面白いハイキングのふりをしていた。そうでもしなければ、誰もあなたと歩いてはくれないから。歌を歌うのを止めて、あなたの本当にしたい話を始めると、全員があなたを置いて歩いて行ってしまったから。

自分と同じ目線で、自分と同じ地平で本音を話せる相手に、5年前のあなたは出会ったことがなかった。
それは、絶望的な孤独だった。
自分の居場所がないという、救われることのない孤独。
あなたは覚えているだろうか。人って温かいんですよ、と何の気なしに言ったのであろうあなたの知人の言葉を。あなたはそんなことすら知らなかった。あなたに温かさを与えた唯一の存在はもういない。どんなに願ってももう二度と会えない。いつも黙ってあなたのそばにいたその存在だけが、あなたを裏切らなかった。でもそれは人ではない。あなたは人の世界に人として存在しながら、人としての言語を誰とも共有出来ずにいた。

だからあなたは、本当のことはほとんど話さず胸の中にしまいこんで生きてきた。あなたが心からの願いにどれだけ苦しみ、どれだけ涙を流し、どれだけ悩んだのか、誰も知らない。あなたのその願いの数々はとてもちっぽけで、とても単純で、当たり前のように手にした人たちの方がずっと多くて、その人たちからの、おそらくは無意識なのであろう心ない言葉に悔し涙をこぼしても、誰もあなたのその涙の理由を聞こうとはしなかった。それがますますあなたを追い詰めて、ますますあなたは孤独になっていった。孤独で構わないとすら思うようになっていた。

でもまさにこの5年前という時期に、あなたはある人から言葉をもらったはずだ。それは、あなたがもう諦めてしまおうとしていた願いのひとつが、5年後の今、天に届いているであろうことを示唆するものだった。あなたはずっと前にもその願いを諦めていたけれど、ある出来事があなたに本当の想いを気付かせてしまった。あなたはまだその出来事を覚えているのだろう。5年前のあなたが、1日だってそのことを忘れていなかったように。笑われるのも馬鹿にされるのも嫌だった。だからあなたはその出来事を願いとともに鍵をかけてしまいこんだ。一寸も先の見えない道を歩くことになっても鍵を開けるつもりはなかった。それほどに、あなたにとっては大切な、魂の底からの願いだった。
あなたのその願いは今、あなたの腕の中にあるだろうか。あなたがずっと口を閉ざしていた物語を、あなたの心の外へ溢れ出させることはできただろうか。何度希望ある未来への夢を抱いても、いつも希望のない未来へ到達していたあなたの道は、あなたが本当に望んだ場所へとついに繋がったのだろうか。そうであって欲しい。そうでなければ、今すぐに生きることを止めてしまった方がいい。そう思っていたことすら忘れている毎日があなたに訪れていることを本気で願わずにはいられない。

一瞬一瞬、現在が過去に変化していくたびに、過去の自分という他人が生まれる。最も身近で、確かに繋がってはいるのだけれど、でもかつての自分は時の流れの中に置いてきた他者に過ぎない。知らない誰かからの言葉を眺めるように、あなたはこの文章を読んだのだろう。そして、何だこの中二病、バッカじゃない?と腹を抱えて笑っているのだろう。そうであって欲しいと、5年前のあなた、すなわち私は祈っている。あなたはきっと忘れてしまっているだろう、でも確かに私はあなただった。何処かで道が断たれ、今ここにいる私が5年後のあなたに繋がらなかったとしても、私は最後の希望を5年後のあなたに託す。本当に、最後になるのであろう、ささやかでありふれた、けれど心からの希望を。