うさぎパイナップル

主にフィギュアスケートの旅日記とテレビ観戦記とお題記事・ただ書き散らして生きていたい

100年後の街角にもあなたが立っているようで

今週のお題「あの人へラブレター」


ずっと、ずっと好きでした。


あの頃の私はまだほんの子供で、それがどんな感情なのか、正直よくわかってなかった。
でも、今でもこっそり心の中で答えてる。好みのタイプは?って聞かれるたびに、あなたの名前を。本当はそんなこと言えないから、適当にごまかしてるんだけれど。

あなたは優しくて、頭も良くて、ほやっとしてて、本当に素敵な人だった。でも怒ると結構怖くて、頑固で、どこかちょっと変わってて。
けど、そんなところも全部、本当に大好きだった。

焦がれて焦がれて、夜も眠れないくらい焦がれたわけじゃない。
あなたを想って涙を流したこともない。
だけど、陽だまりがそっと手のひらをあたためるみたいに、あなたはいつの間にか、私の心に部屋を作って住んでいた。
あなたのその部屋はいつも小春日和で、あなたは温かいお茶を飲みながらにこにこと笑っていてくれる。いつも、いつだって。
いいよ、大丈夫。その部屋は永遠に貸してあげる。出ていってくれって言っても、出ていかないでしょう?
ううん、出ていって欲しくないのは私。ただ、いつだってただこの私。


知ってるんだ。
わかってるんだ。
あなたは私のものには絶対にならない。
あなたが誰を見つめていてもいなくても、そんなこととは関係なしに、絶対に。
海を越えても、空を越えても、世界の果てまで行っても、あなたはそこにはいないんだ。
私は、私たちはただただ憧れて、ただただ傷つくことなくその感情と遊んで、そして大人になるんだよ。


あなたの冒険を、私はドキドキしながらずっと見つめてた。
今でも時々、ページをめくる。
子供だった私はこんな枯れた大人になってしまったけど、少し古びてしまった紙の上に、何ひとつ変わらないあなたの笑顔が踊っている。

二度目に東京へ行った時、友達に頼んで浅草を観光した。
冬の朝は清々しくて空気が冷たくて、川面はきらきら輝いてた。
人力車に揺られながら、あなたが冒険した街を眺めた。
あなたのいた頃と、街の姿はすっかり変わってしまったけれど、そこの角から走って飛び出してくるあなたとあなたの相棒の姿が、ぼんやり見えた気がした。
ぼんやりと、でも、いきいきと。

ねえ、あれからあなたは何を成し遂げたんだろう?
世界中の文献を紐解いても、そんなことはどこにも載ってない。
でも私は知ってるよ。あなたは幸せになったんだ。絶対に、絶対にそう。
どこにも答えが書いていないんだから、勝手にそう思ってていいんだよ。ね?

あなたとあなたの相棒の冒険に憧れた私は、あなたみたいな素敵な人が活躍する物語を紡ぐ側に回りたいって、ずうっと思ってた。
けど残念、才能なかったみたいだよ。しょうがないよね。
でも、でもね、こうやって手紙を書くことくらいはできるようになったんだよ。
だから書くね、最初で最後の、あなたへの手紙を。
どこにも届くことのない、この手紙を。


ねえ、あなた。
大好きだったあなた。
今でも大好きなあなた。
あなたたちの物語は、寂しい子供だった私の心に熱くて爽やかで忘れられない風を吹かせてくれた。
その風は、今も変わらずさやさやと流れている。
あなたの冒険譚は、いつまでもいつまでも、私の宝物。
私の好きなものがいっぱいに詰まった、私の宝物。
そしてあなたが教えてくれた、「あこがれ」というつかみどころのないあの気持ちも。


ページをめくれば、いつだってそこに変わらないあなたがいてくれる。
それだけでいいんです。それだけで。
これからもずっと、私の憧れの人でいてください。
またいつか、隅田川の土手にあなたの姿を探しに行きます。
あなたが暮らした、あの東京へ。


東京物語』の牧野草二郎さん
いいえ、草ちゃんへ



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ネタに走る予定だったんですけど、このお題なら私のポエマー属性を爆発させられるなと思ってガチなのにしました(恥)。
三次元の人相手にこれやるとちょっと色々アレなんで(笑)二次元で。二次元の好きなキャラは、友達に「尻軽」と名付けられたくらい山ほどいるんですけど(でも合法的に何股もかけられるのって二次元だけでしょーが、笑)、もっとガチめに好きだったキャラいっぱいいるんですけど(笑)、穏やかにいつまでも大ファンのキャラクターにしました。
ふくやまけいこさんの『東京物語』の主人公のひとり、牧野草二郎さんへのファンレターでございます。連載開始が約30年前という古い漫画ですけど、私は3つの出版社から発売されたすべての版を持ってるくらい大好きです。
昭和初期の東京を舞台に、桧前平介と牧野草二郎の二人が様々な事件を解決していく物語。少し不思議な話もあり、おどろおどろしい話もあり、でもかわいい絵柄とどこか漂うほのぼのした雰囲気は、ほかにはない病みつきになる魅力に溢れています。機会があれば是非読んでみてください。