うさぎパイナップル

主にフィギュアスケートの旅日記とテレビ観戦記とお題記事・ただ書き散らして生きていたい

Fantasy on Ice 2011 in Fukuoka⑩

※この記事は昔書いたものを修正して今更載せています。詳細についてはこちらをご覧ください↓

usagipineapple.hatenablog.jp

 

安藤さんが退場する頃には、もう次のスケーターに私の意識は自然に向いてしまっていました。
ステファン・ランビエール

グレーのシャツ。リンクに現れると、正面側の真ん中あたりの座席の前で、氷の上に横になる。
「Bring Me to Life」。
曲が流れ出すと、体を起こす。…起こし方がちょっとかわいらしいので笑ってしまいそうになるのだけど、それは本当にそこだけ。
後はただ、彼の体の動きのひとつひとつに、ただ圧倒されるだけでした。

このプログラムは2月にスイスで披露してから何度か滑っているとは聞いていたものの、私はラフマニノフと同じく初見。
こういうロックな曲で滑るのは珍しいんじゃないかなと思いつつも「でもやっぱりステファンが選んだ曲だな」とも何の根拠もなく思いました。

途中、首を右にカクッと倒す振付があるんですけど、私ね、それ見た瞬間、
自分の神経というか、心に張ってある糸というか、とにかくなんかわかんないけど、
切れた
のを感じました、確かに。
ステファンの演技の世界に深淵まで引きずり込まれるスイッチが、その振付だったとでも言いましょうか。
そう、このプログラム、私がステファンの演技に感じる「特別な何か」を持っているプログラムなんじゃないかと思ったのです。

すごく説明しにくい話で、たぶんこれから書くことは意味がわからないと思うのだけど、私がステファンの演技に惹かれる理由がおそらくはそこにあるのだと思うので、ちょっと文章化にチャレンジしてみます。

実は、私はいつステファンのファンになったのか全然覚えていないのです。たぶんトリノオリンピックあたりじゃないかと思うのだけど、とにかく覚えてない。同じくらい大好きなヤグディンやジェフリーは、そのきっかけをはっきり覚えてるのに。
正直、バンクーバーまでイケメン枠にすら入れてなかったと思う。信じられない話ですが本当です(笑)。もちろん整っているとはまあ思っていたけど、美形と呼ぶならいくらでもほかにそういう選手がいるじゃん、くらいの感覚でした。なので、自他共に認める面食いの私にしてみれば、まずは演技ありきの選手の筆頭だったわけです。…すみません顔が好きなスケーターも結構いましてエヘヘ←エヘヘじゃねーよ

ではその演技の何に惹かれるのか、これがまたわからなかった。いつの間にか目が離せなくなっていたのは一体何故なのだろう…
その疑問を解決したのが「ロミオとジュリエット」だったと思うのです。前述した通り、私の大好きなプログラム。
私はこれを待っていた、これを見たかった。そう、思ったのです。
もう理屈じゃないんですよ。飛び込んで来た感覚はそのまま受け入れるしかないと言うか。
私の心の琴線を、魂をダイレクトに揺さぶる何かを、彼の演技は持っているのだと、その時理性ではなく感性で、私は悟ったのだと思います。

ステファンは非常に人気のあるスケーターで、成功率の高い4回転とか、世界一のスピンとか、音楽を感じる能力の高さとか、演技の密度の濃さとか、人々がそれぞれ素晴らしいと感じるポイントはあるだろうけど、私のように理屈じゃない何かに惹かれた人もたぶん結構いるんじゃないかと思います。いるよね?たぶん…

同じような感覚を、バンクーバーエキシビションで滑った「Ne me quitte pas」にも抱いたんですよね。あれは凄いプログラムだとしみじみ思う。スケートに哲学性まで感じたのは初めてだった。
私が福岡までに生で見たステファンのプログラムは「椿姫」「Let the Good Times Roll」「ウィリアム・テル」「荒川さんとコラボしたやつ」だけれど、全部華やかで明るい感じの、楽しそうなプログラムだったんですよね。
だけどラフマニノフ前奏曲と「Bring Me to Life」はシリアスで、「ロミオとジュリエット」や「Ne me quitte pas」に近い。と思った。特に「Bring Me to Life」。
何かを狂おしく求めるような、情熱的とも切なさとも違う、魂の声。私がステファンの演技に惹かれるコアがそれなのではないか。そして「Bring Me to Life」はそれが聞こえるプログラムなのではないか。
日曜日公演、私は「Bring Me to Life」で泣いたのです。ただ涙が溢れた。それは、個人的にある出来事を受けて感極まったのもあるだろうし、私の魂が「それを感じたい」と求めている何かをその演技に見たからだと思う。実際、日曜日公演の彼の演技は二日間で一番素晴らしかった。

何を言ってるかさっぱりわからないと思うし、何コイツ痛いこと言ってんの、と言われても仕方ないと思う。
ただ、理屈じゃない。理屈じゃないんですよ。
だけど、こんな風に自分の感覚をすべて預けてしまえる何かに出会えることってそうはないと思う。ステファンに関しては不思議とラッキーなことも続いているのですが、それらはたまたま重なった偶然に過ぎず、しかもごくささやかではあるけれど、でもそれはきっと、求めていたものに出会ったからなんだ、という気もしています。…うわっ、何言ってんだコイツはマジで。すみません痛くて。まあ基本的に私は痛い人間なんで←開き直ったよオイ…

土曜日昼公演だったかな、演技終了後、あんまりスイス国旗が多かったのか、私のいた側の客席全方向に投げキッスを大盤振る舞いしていました(笑)。かわいかった(笑)

そして日曜日。心からのスタンディングオベーション。涙が頬を伝いました。
客席にお辞儀をするステファン。ふと、その右手が、真っ直ぐにこちらの方に伸ばされたのです。
投げキッスを飛ばしたんだろうけど、その腕の所作すら美しかった。
そのあたりにバナーでも持ってる人がいたんだと思いますが、盛大に勘違いできて楽しかったよ、ステファン(笑)

ラフマニノフと同じく、途中から拍手もしないで没頭して見てしまい、ちっとも詳細が書いてない実に感覚的な感想文になってしまいましたが、とにかく福岡、来て良かった。もう私、一生ステファンのファンでいる。これからも世界中の人の心を揺さぶり続けてください。この命ある限り、あなたの成功を祈っています。

以下次号。