うさぎパイナップル

フィギュアスケート旅日記とテレビ観戦記とその他色々色々・ただ書き散らして生きていたい(ライター始めました2018・生活の糧と居場所募集中)

NHK杯2017③

羽生君が公式練習中に怪我をしたらしい。

その一報を知った時、頭が真っ白になった。真っ白になった頭に浮かんだのは、「棄権」の文字だった。

皆さんにも同様の方は多いと勝手に思っているのだが、「ある事象についていちばん最初に頭に思い浮かんだこと」というのは正解である確率が高い。少なくとも私はそうなのだ。私はどちらかと言うと何でも論理的に説明をつけてしまいたいタイプの人間なのだが、それでいて人間の第六感というものは決して馬鹿にはできないとも常々思っている。世の中に絶対はないし、すべてが説明のつく事象とは限らない。我々はすべてを把握できる程大それた存在じゃない。その感覚は忘れてはいけないと思っている。

だが、まったく詳細がわからないのに棄権だと思うなんて、とすぐにその考えは打ち消した。怪我と言ってもどの程度かわからない。そもそも本当に怪我なのかもわからない。スケーターがジャンプで転倒するのは日常茶飯事のはずだからだ。たまたま人前で派手に転んでしまった、ということがないわけではないだろう。

そもそも羽生君は前日の練習にもその日の午前中の練習にも出ていなかった。そのことも含めて、体調が良くないのかもしれないと思っていた。羽生君は体調が良くないと予想される場合に肌が荒れていることが多いように思うので、インタビューなどでアップの映像があればもう少しはっきりしたことがわかるのに、と思ったのだが、今回私はそのような映像を見る機会がなかった。
もし体調が良くないのであればジャンプもうまくいかなかったのだろうし、大事を取って流すだけの練習にとどめた可能性があると考えたのだ。それはそれで心配だが、少なくとも最悪の状況ではないはずだから。
前日に高熱を出していた、という事実がわかったのは、少しあとになってのことである。無理をしたのが影響したのだろうか…。

少しずつ情報がわかってくる。転倒後にいったん離れたがリンクには戻ってきていたこと。ジャンプは跳ばずともスピンも行っていたし普通に滑れていたこと。もしも緊急を要するような酷い怪我であれば滑ることも歩くこともできないはずだ。おそらく最悪の状況ではあるまい、とその点ではとりあえず安心した。もし骨折等であれば、事はNHK杯だけでは済まないからだ。そんなことになっていたら、スケートの神は我々によってその地位から引きずり下ろされていただろう。

オリンピックと日程がさほど離れていない四大陸選手権には出場しないと仮定した場合、もうオリンピックまでに試合のチャンスは3回しかない。が、試合に出場せず温存するという作戦も有効だとは思うし、実際羽生君をオリンピックに出さない理由は何一つない。建前上の問題でしかないのであれば選考など最初から不要では、と思うほどである。しかも今シーズンは特別である。四年に一度しか行われない競技が開催されるシーズンである。たとえさほどの怪我でなかったとしても、NHK杯にもファイナルにも敢えて出場せず回復に努める、という決断はこと今シーズンにおいては有用であるように思われる。
だが、もうあと3回しか試合ができないというのも事実なのだ。ジャッジや客の反応、競技会の空気、それらを感じた上でのプログラム等の調整など、実際に試合を行った上でしか掴めない感覚もあるだろう。ロステレコムで試合に投入したルッツを今後どうするか、競技の中で確かめたいと考えたとしてもおかしくはない。そうでなくても、好戦的な性格の羽生君にとって、よほどのことがない限り競技に出ないという選択肢は存在しないのではないか。自分がどれだけ期待され、望まれているのかも知っているだろうし、そういった責任感も人一倍強いように感じる。そのよほどのことが起きるということは、すなわち楽観視できない怪我であるという可能性が出てくる。NHK杯に出られる状態であることが、結局は羽生君にとっていちばんいい状況なのである。どうか出場出来るようにと、そうであるようにと、必死で祈った。

しかし、確かNHKのニュースで流れた転倒の映像を見て、楽観視しようとしていた自分の考えは修正しなければならないと思うことになった。
あれは…。あの転び方は…。
普段から鍛えておりさらに転倒に慣れているスケート選手だからこそ立って歩けているだけで、我々一般人であれば酷い怪我を負ってしまうような足の曲がり方に見えた。ほかの映像や画像と角度が違ったので、素人の私にも容赦なくそう感じてしまったと言おうか…。これは覚悟しなければ、とこの時点で腹を括ってはいたが、やはりどうにかなって欲しいという気持ちの方が強かった。

夜に行われた会見にも羽生君の姿はなかった。翌朝の公式練習で出場を判断するという話だったが、ここにも羽生君の姿は結局なかった。羽生君が諦めていないことは関係者の話からも伝わってきた。出させてあげたかった。何とかなって欲しかった。羽生君が諦めないのなら、我々にできることは諦めず祈ることだけだ。

けれど、無情にもその瞬間はやってきた。
羽生君の棄権が、発表された。

無理矢理出場することもできない状態だったのかと思うと心配だったが、少なくとも出るかどうかギリギリまで粘れる怪我であったということだ。そうでなければとっくに棄権していたはずだ。今シーズンは特別なのだ、仕方あるまい。
別の名称を聞くと恐ろしい怪我に思えたが、どうやらいわゆる捻挫のようだし、しばらく安静にしていればきっと大丈夫なのだろう。確かに残念だし歓迎される出来事ではないのだが、まだ11月だ。これが逆にいい結果に繋がる可能性だってなくはないのだ。人生など何がどう影響するかその時になってみなければわからない。あとは信じて待つしかないと思った。

けど、だけれども。
女子の試合は、冷静に見られたのだけれど。
男子の試合が始まる前に、思いっきり泣いてしまった。そのままなかなか止まらなかった。仕方ないのだ。今回はたまたま運が悪かったとしか言いようがないし、治らない怪我ではおそらくないのだから過度に心配する必要もないのだ。

けれど、羽生君は、泣いていたという。

どんなに悔しかっただろう。我々は安易にオリンピックを最重要視しがちだが、彼にとってNHK杯はきっと「出なくてもいい試合」などではなかったのだ。きっとそんな試合は彼には存在しないのだ。オリンピックシーズンのファイナルのジンクスもきっと知っていただろうし、連覇も成し遂げたかっただろう。試合で試したかったことなどもたくさんあるだろう。
泣くほど、泣いてしまうほど悔しかったのだろうか。胸が潰れそうだった。

今回のNHK杯は既にパトリック・チャンの欠場も発表されており、実はその時点で私は相当なショックを受けていた。たった一度だけエキシビションで見たパトリックの演技を、私は今でも忘れていない。彼の足の動きだけを、何十分でも何時間でも見ていられる、と思った。絶品だった。もう一度見られる、しかも競技の場であの足さばきが見られる、と、本当の本当に楽しみにしていたので、欠場発表は相当に堪えた。さらに、昨年出向いた全日本に姿がなく、今度こそ演技が見られると期待していた村上大介も、肺炎のため欠場するという。せっかく取れたNHK杯なのに残念なことが続く、と落ち込んでいたところに、羽生君の欠場でとどめを刺されてしまった。

パトリックやダイスや羽生君を責めたいのではなく、そんな気はひとかけらもないのである。むしろオリンピックやその先の競技や様々な場面で素晴らしい演技を見せてくれるならいくらだって我慢する。
だが。
経済的な事情からアイスショーに絞って会場に出向いていた私が、そのポリシーを曲げてでも競技での演技をこの目で見たい、と思った選手が羽生君だったのだ。一寸の先も見えなくなってしまった自分の人生に、唯一後悔があるとすれば羽生君を試合の場で見ていないことだ。全日本で叶わなかったその夢を、今度こそ実現させられるのだと心から嬉しく思っていた。しかしその夢は、またしても断たれてしまった。どんなに祈っても私にこたえてくれる神はいないらしい。たったひとつの希望すら、奪っていってしまうのだから。

この先にまだ人生が残っているとしても、これはもう私に競技のチケットを取るなという天からの警告だと思った…。わかったよ、今まで通り大人しく家で見るよ。出過ぎた真似をしてすいませんでしたね!(血涙)

ほんの一瞬だったけれど、NHK杯に行かないという選択肢も考えた。羽生君が出ないから見たくないというのではなく、チケットは諦めるとしても交通費や宿泊費が浮くことになれば、それを生活費に回せるからである。もう私には来月から住む家はないのだ。電気が使えるうちに、先の方までブログを書いておこうと思っている。こんな状況で自分を諦めさせるには、羽生君の欠場くらいしか理由がなかった。生きるか死ぬかの話なので、もし私が本当に会場へ行かなかったとしても、責められるのは困る。心の底から私の勝手だ。自分のやっていることを棚に上げて他人を断罪する人間が多過ぎる。あなた方が責められないのはあなた方には責められていることすら理解できないからで、そもそもお話にならないだけのことだ。自分の大好きな選手のことしか見えていないあなたに、自分の大好きな選手の動向で判断を行う誰かを責める資格などない。もちろん程度にもよるし、便乗して自己満足の道具に使うような輩などは言語道断だけれど、大切なのは競技が滞りなく行われることのみではないのかといつも思っている。

ちょっと言葉では説明できないほどのショックではあったが、自分の生活がずっと最低の状況だったにも関わらず、今回のNHK杯には行った方がいい、という漠然とした予感は最後まで去ることがなく、予定通り私は大阪へ発つことを決めた。諦めるという選択肢など、結局私には最初から存在しなかったようである。そうなんだよ、馬鹿なんだよ。ほっといてくれ(笑)。既に前日入りしていて、グランフロントのパネルの写真とか送ってきてくれて、待ってるよって言ってくれた羽生君ファン仲間のAさんありがとうございました(涙)。

羽生君のみならず、欠場の多かった今年のNHK杯ですが、皆さんが次の機会に、素晴らしい演技を披露してくださることを、心から願っています。

以下次号。