いまさらのんびり掲載し続ける世界選手権の感想。いつもいつも今更ですみません。翌日までには書き上げてることも多いんですけどね。
さて、今回は男子ショートプログラムの感想の最終回。男子は3回で収める予定でしたが、29番目に滑った方のおかげで1回分増えてしまいました(笑)。何も聞かないでください(汗)。
ではでは、本日も最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
男子ショートプログラム④
第6グループ②
29:羽生結弦
彼はヨーロッパの試合にやたらめったら強いという印象があり、実は今回はあまり心配してませんでした。
全日本で見せた凄まじい演技、公式練習の様子からも何となくうかがえる安定感。
そう、なんかすごく安定した気がする。長らく「パズルがかっちり噛み合えば誰も勝てない能力の持ち主」という選手だったと思うのだけど、そのパズルを確実に合わせるための練習を数年かけてしてきた感じがする。
それはコロナの世の中で「これまで通り」ができなくなったからこそ彼が見つけ出したものなのかもしれないし、そんなものには関係なく、4回転アクセルを試合で成功させるという人類の夢のために、そこに到達するために「これまで通り」彼が研究を重ねてきた成果なのかもしれない。
「実力を実力通りに」発揮できればこれほど強い選手はそういない。強いだけではなく、観客の心をひきつけるカリスマ性という、練習ではそう簡単に培えないであろう才能も有している彼は、すべてが噛み合えば世界中を巻き込めるほどのエネルギーを発生させられる。それが見たくて、我々は彼に熱狂し続けているのかもしれない。
『Let Me Entertain You』。このテンションが上がりまくる曲を、こんなご時世だからこそ選んでくれた彼の意志に、ストックホルムのスケートの神様もきっと微笑むはずだと信じて演技開始を見守る。
リンクサイドのオーサー、プーさんのティッシュケース。1年以上奪われていた、当たり前だった光景が、当たり前のように目の前にある。あまりにも久しぶり過ぎて、当たり前の光景として瞬時に受け入れられなかったくらいだ。
幕が上がる。ロックの音色を引き連れた、スーパースターが氷の舞台に姿を見せる。
あまり心配していなかったとは言うものの、やはり冒頭のサルコウには緊張してしまう。一瞬ヒヤッとしたが、加点のつくジャンプとして降りた。レビューがついていたし、回転不足判定が下りるかとドキドキしたが、そんなこともなかった様子。ほっ。回転不足ならかなりGOEが下げられることになっただろうし。
技術的なことはよくわからないけど、ジャンプの動作の開始から終了までの本当に短い時間の間に、空中で体勢を調整して問題なく降りられるようにしてしまうのだろう。そのあたりの技術がさらにアップしたのではないかと、全日本の様子などからも勝手に予想していたけれど、このサルコウにそれをまた強く感じた。
続く4回転トゥループのコンビネーション。こちらはまったく何の問題もないだろう。このコンビネーション、数シーズン前はうまく着氷をごまかして演技の一部にしているような印象を受ける場合もあったのだが、そういったことすらなく、ただただ当たり前のように、空気のように、余裕をもって成功させているように見えた。
トリプルアクセルに至っては、もはやスポーツの技術の一要素として語れる範囲にはないだろうと驚嘆するしかない。実際にスケートを滑ったことがあると実感できるけど、氷の上に立つだけのことでも、運動神経に欠けた人間にはとんでもなく難しい技術なのに、まるで歌っているかのように、演奏しているかのようにジャンプを跳んで降りるなんて、本当に限られた人間以外には不可能だ。
インパクトある音に着氷のタイミングを寸分の狂いなく合わせることで、見ている人間の芯が揺さぶられる。魂に火が点く。それは熱狂の渦となって会場を席巻し、そのエネルギーが羽生結弦の力となってさらなる渦となっていく。
人間が音楽に合わせて滑っているのを見るだけでこんなに何かが鼓舞されるなんて。そのくらくらした驚きとためらいがあまりに蠱惑的で、我々は羽生結弦の滑りを見ることを止められないのかもしれない。
全日本ではスピンがひとつ得点が入っていなかったが、当然のように同じミスは侵さない。今回はオーサーも帯同している、綿密な調整をしてきただろう。ステップはレベル3だったので、次の修正要素はそこだろうか。羽生君はなかなかレベル4を取れない印象があるが、この大会でもそうだった。見ている方としては、最高に煽ってくれる最高に盛り上がるステップで、そんなことはどうでもいいのだけど、スポーツなのだからそのあたりの採点はシビアで、どうでもいいなどと本当は言ってはいけないのである。
関係者以外は会場にいないはずだけれども、その関係者からの歓声がはっきりと聞こえてきた。黙って見ていられるような演技ではなかったのだろうな。
観客がいない分、各国の選手や関係者からの自国の選手への応援の声がよく聞こえていたけど、羽生君へのそれは、おそらく日本人の関係者からだけのものではないだろう。日本の関係者は、全日本で観客が我慢していたように、声を出さずに見ていたのかもしれない。
ある意味自由な海外の雰囲気が、無観客の会場も温めてくれる。観客がいることによるトラブルも確かにあるけれど、声援や手拍子や観客もまたスポーツの一部なのだと実感させられた。
得点発表。本人も少し首を傾げている。ステップのレベルと、サルコウが少し怪しかった点は確かに得点に響いているかもしれないが、それはそこまで大きなものではないはず。彼のベストに近い点が出ていてもおかしくはなかったはずだ。翌日放送された情報番組『ひるおび』で本田君が言ってたけど、もうちょっと加点があっても良かったのではないか、それなのかもしれない。特にコンビネーションジャンプはそうかもしれない。
全日本の方がスピード感や「絶対的感」がほんのちょっとだがもう少しあった気がするので、そこだろうか。どっちにしろ、高得点には違いない。とにかくミスを最小限にすることがショートの、そして羽生君の課題だとすれば、十分すぎる出来である。採点表を見る限りは、このショートでどの要素も1点以上の加点を得ている選手なんて男子では羽生君くらいなわけだし。
やっとこのプログラムを生放送で見られて私も嬉しかった。会場に行けない分(コロナに関係なく貧民過ぎて行けなかっただろうけど…)、テレビの前で精一杯楽しむことにして、終盤は緊張を追いやって手拍子しながら見ていた。深夜なので声を出すことは控えたけど。エア絶叫です(笑)。日本と北欧、遠く遠く距離は隔てていたけれど、応援の力が届くと信じて。そして、彼がプログラムに込めた想いも我々に届くと信じて。
さあ、羽生結弦が暫定1位。ショートプログラム終了時にひとまずの勝者として立っているのは誰なのか。遠い北欧の地で白い氷に刻み付けられる戦いの炎から、最後まで目が離せない。
30:ダニエル・グラッセル
ジャンプ構成面白いなあ。よっぽどルッツが得意なのか、単独で4回転ルッツ、コンビネーションにトリプルルッツ。トリプルアクセルは良く転倒しなかったですね、こらえた。
後半少しパワーダウンしてきたようにも見えましたが、コロナにかかってしばらく練習できなかったのか。しかも羽生君の直後の最終グループ、頑張ったんじゃないかな。4回転ルッツも降りたしね。
31:マッテオ・リッツォ
イタリアが続く。なんか珍しい感じ。
さすがの演技でしたね。4回転は本田君によると両足着氷だそうですが、ほかのジャンプは綺麗に降りてましたし、粗削りな感じのほぼしない、きちっと基礎の上に乗ってる感じの滑りは見てて安心感があります。
得点はさほど伸びずか。4回転は回転不足ですね。暫定10位。
32:ネイサン・チェン
相変わらずシンプルイズベストな衣装ですが、これでもちゃんと衣装に見えてくるよ、ネイサンだから…。
4回転ルッツで転倒。久しぶりにあんな派手に転倒してるの見たような…。スピンでもミスが出たようで、いつものスピードがないと実況。ひとつ目のスピンがレベル2。
しかしアクセルはしっかり降りて、コンビネーションは4回転フリップ!!!そんなジャンプ、ショートの後半にしれっと叩き込めてしまうところが恐ろしいわよ。ルッツ決まってたらこれ跳んでたのかな、安全策で3回転にしてたりしたのかな。持ってるカードが多すぎる上にそれぞれが切り札として強すぎるところがネイサンの恐ろしさだろうなあ。
後半はわりといつものネイサンだった気がしますが、前半はルッツのミスに引きずられちゃったのだろうか。
本田君の予想通りの得点だったけど、それでも十分高い。フリップのコンビネーションが効きに効きまくってるよね、20点近くあるって言ってたもんな本田君…。
33:モリス・クビテラシビリ
高難度のジャンプばかり入ってる構成なんですけども、どれも綺麗に降りられない。どうにかこらえてはいるんですが…。ビシッと決まれば高得点が出せるでしょうから、もったいなくはありますが、これだけミスが続いちゃうと点は伸びないだろうなあ。ネイサンの後だし最終滑走だし滑りにくかったでしょうね、頑張ったよね。
う、やはり得点が…。フリーには進めそうで良かった…。
終わってみると、羽生君とネイサンは予想通りの3位以内。この二人の一騎打ちの可能性がいちばん高かったですからね。しかしそこに割って入ってる鍵山君が凄すぎる。フリーもこのまま臆することなく突き進んで欲しい。
羽生君はショート1位で折り返した時のフリーにミスが出やすいけど、今シーズンの彼は今までの彼とまた違う気がするし、とにかくヨーロッパの試合に強いという印象があるのでこのまま完全勝利を果たす可能性は当然ながらものすごくある。
しかし、3位で折り返したネイサンがこのまま黙っているはずもない。ショートはミスが出たものの、それを取り返しにかかる恐ろしいジャンプを入れてきているし、その恐ろしい構成でフリーに挑んでくる可能性も十分にあるわけで、そうなると羽生君がパーフェクトに滑ったとしても勝負の行方はわからなくなる。
昌磨君もなんだかんだと最終グループに残っていてさすがです。なんだかすごく楽しそうなので、どんな形になったとしても彼らしい演技を見せてくれると思う。枠取りもかかっているとは言え、これだけ大きな大会で純粋に試合を楽しめる精神に至れる人間はそうそういないだろう。彼もまた楽しみ。
コリヤダ君はプレッシャーに弱い印象があるので、どこまでメンタルがコントロールできるかが鍵かな。パーフェクトに滑れば彼もまた強い選手である。キーガンもショートのような演技ができれば上位に食い込んでくるだろう。最終グループには残っていないけど、ジェイソンやジュンファンもミスなく滑れば上位争いに十二分に参加してきそうだし、とにかく勝負の行方は全然わからない。フリーもショート同様、できるだけ無の境地で迎えたいと思います。
…この記事、ショートの翌日に全部書き上げているので、フリーの結果はまったくわかってないんです、書いている今は。女子のフリーすら始まってないから、今。掲載する頃には4月の中盤くらいになってるかもしれないので本気で今更なんですけどね…。
なので、後日自分でも読み返して、何だこの予想、って思うのかどうか。いや、予想なんてほぼしてないか。みんなすごいから誰が勝つかなんてわかんないよ!って言ってるだけだから(笑)。
羽生君の感想でも触れたけど、本田君がひるおびに出てたのびっくりした。スウェーデンにいるのかと思ってたのに。テレビの解説は現地まで行かずにリモートってことになったのか。ヤグディンがストックホルムでうろうろしてたので、各国のテレビ局のスタッフは現地にいるのかと思ってた。
これまでなら世界選手権開催中に彼が日本に残ってることなんてなかったろうから、今年が最初で最後かもしれませんな。本田君がいなかったら我らの稔が出演していたのだろうか(笑)。
んでもって羽生君、4回転アクセル入れるつもりでいたんだな今回。ギリギリで入れない判断に変えたみたいだけど、入れてもいいかもしれないと思えるくらいにまで完成してきてるってことでいいのかな。やべえ超ワクワクしてきた…。4回転アクセルのために身体を作り変えて研究して、その結果の今の安定ぶりならいいことしかないじゃないか。もちろん、ここまで来るには相当な道程だったろうと思いますが。間違いなくただ楽しいだけじゃないよね。
長々と語りましたが、男子ショートプログラムについては以上。ペアの結果を見て、うおおお木原君と三浦さん見てえとまだ暴れておりますが、とりあえず無理なので次回からは女子フリーの感想の予定です。今更の掲載で申し訳ないですが、いろいろ思い出しながら読んでいただければ幸いです。
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