うさぎパイナップル

主にフィギュアスケートの旅日記とテレビ観戦記とお題記事・ただ書き散らして生きていたい

プリンスアイスワールド2018 広島公演⑮

めくるめく華やかな異世界が、現実の向こうに消えていく瞬間が近付いてきます。プリンスアイスワールドはついにフィナーレへ。

プリンスアイスワールドチームは皆黒い衣装。女性は首に赤いチョーカー?を巻いていて、それが差し色になって素敵でした。オープニングが真っ白だったので対照的で面白い。男性スケーターが変形デススパイラルみたいなの(なんて技なのかわからん…。すみません)やってたりして盛り上がりました。

ゲストスケーターも全員登場。安藤さんも小塚君もショーのプログラムとは違う衣装。刑事君はジョジョでした。皆さん結構色々着て出てきてくれるのですね、楽しい。本田君と小塚君のイーグルがたっぷり見られたのも最高です。上の方の席はこんな時最高…。軌道が綺麗なんすよこれがもう…。
織田君は確かここでタノジャンプを披露。確か2回ほど。間違ってたらすみません…。伸び上がるような、本当に地面からニョキッと生えてくるような、スムーズでしなやかな両手タノなんですよ。あなた本当にそれ引退してから習得したんですか…。て言うか本当に引退したんでしたっけ…?←白目
刑事君はショー全体を通してずっと綺麗なジャンプを跳んでいて、いいシーズンが過ごせそうな気がしてワクワクしちゃいました。
まだ小さい望結ちゃんと紗来ちゃんを除けば、ゲストスケーターは全員オリンピック出場者なのですね。しかもソルトレイクから平昌まで5大会の代表が揃ってる。豪華だな、改めて。そしてそのうち4大会に出てるプルシェンコって一体?あの人何?←超今更

スクリーンをスタッフロールが流れる。プリンスアイスワールドは今年で40周年。その歴史がギュッと凝縮されて流れていく。こんなにも長く、たくさんの人たちが繋がってきた歴史があるんだなあ。映画のラストシーンのようで見入ってしまった。流れるスピードが速かったしちょっと遠かったので文字もほぼ読めなかったけど…。

ああ、この眩しい世界とももうお別れなのだな、と少し寂しく思っていたところ、突然場内に女性の声が響く。町田君がこの公演でプリンスへの出演が最後なので、セレモニーを行うとのこと。
マイクを渡される町田君は笑顔。自分でも、サプライズですねとかなんとかって言ってたけど、なんかすごく嬉しそう。たぶんちょっとは予想してたんじゃないかなあと思うんだけど(笑)、彼の予想してた展開とは違ってたのかな、なんか近年見たことないようなテンション。とにかく嬉しそう。

町田君が初めてアイスショーに出演したのが2007年のプリンスの広島公演(たぶん完売で私が諦めたやつ)で、いつも練習していたリンクが一晩で華やかな世界に変わったことに興奮した思い出や、これからもプリンスに関わっていくことなどを、あの懐かしい、ちょっと舌足らずな喋り方で話し始めました。途中からスムーズに、話し慣れた人の話し方に変わってたかなとは思うけど。
最初、「僕」と言いそうになって慌てて「私」に言い直してたけど、途中で一度だけ「僕」って言っちゃってましたね。やっぱり本人にも予想外だったのかな、素が出ちゃってる感じだったので。
学問の徒として生きることを決めたからか、公の自分として線引きをしているのか、町田君の「私」という一人称には、決して町田樹を演じてるわけじゃないにしろ「完全に表に向けた町田樹」なんだろうな、という印象があったんですけど、この挨拶では現役の頃の、この広島で練習していた頃の町田君が少しだけ顔を覗かせていたような気がしました。

スケーターとしてはもう出演はないけれど、これからも演出とか振付とか、何らかの形でプリンスを支えていくのかな。もう、そう伝えたじゃんか、なのにセレモニーなんてビックリしたし、とでも心の声が聞こえてきそう。きっと、これでお別れじゃないからなんでしょうね、町田君が清々しい笑顔だったのは。メダリスト・オン・アイスの時は言葉を詰まらせてたから、ずっと笑顔の町田君の姿に、こちらも何だか清々しい気持ちでした。

でも、町田君がもう我々ファンの前で演技をすることはないのです。まだジャパンオープンとカーニバル・オン・アイスが残ってるし、町田君に悲壮感がまったくなかったのはそのせいかもしれないけれど、プリンスで、そしてこの広島で、町田君が選手やプロスケーターとして滑ることはもうない。たとえ今後も振付や解説等で活躍することがあるにせよ、プロスケーターとしても引退したスケーターへの応援の方法は、やはりそれまでとそれからでは変化せざるを得ないでしょう。どちらかと言うと、これは我々ファンが区切りとして受け止めるべきセレモニーだったかもしれません。

この日の町田君の滑りを見ていたら、「滑って踊れる教授という新境地を開けばいいのに、もったいないな」と率直に思ったのですが、町田君は一度決めたことはもう曲げないんだろうな、という気もしました。
一度就職してから大学に戻り、研究の道に入った後輩がいるのですが、3日に一度は徹夜だと言っていて、学問を究めることの大変さを思い知りました。そこまでいかずとも、スケーターとの二足のわらじは大変だったのでしょう。大学を取り巻く環境はあまり芳しくないのだな、という話を聞くことも多いです。人手も足りなければ、お金もない。すぐに成果が見えないことや形のないもの、利益をもたらさないものに日本人が価値を見出ださなくなっていることを痛感します。大学にもよると思いますが、その厳しさを町田君が感じることもあったかもしれません。
あっという間に教授まで出世した人もいれば(私より若いのでたぶんすごい)、奨学金があるから大丈夫と言い張り、何十年もの間歳だけ重ねていく人に「その奨学金って返さなきゃいけないやつじゃないの」と喉まで出かかった言葉を飲み込んだこともある。人それぞれのペースはあるけれど、ハッキリ才能の有無と実力の出る世界なのかもしれない。学生というだけで、暇で遊んでいて無為であると決めつける人間は少なからずいるが、決してそんなことはない。どこの世界でも競争はあり、そして「適材適所」ができなければどこへ行っても同じこと。
でも町田君はきっと大丈夫なんじゃないかな、と勝手に思ってる。知ってる大学の先生が「365日勉強していた友達がいて、すごく優秀だったけど若くして死んだ。適度に休め」といったことを遠い昔に話していた。だから町田君も根を詰めないで、健康で息の長い研究者になって欲しい。願うことはそれだけ。

プロ引退は事前に告知があったので、今度は皆心の準備ができるものの、現役時と合わせて、町田君の引退の仕方はいちばん強烈なファンを残すやり方だと思うんだよね。きっと町田君の名前をどこかの論文やテロップに探してしまう人は今後も尽きないのだろう。
私は「地元で応援できる」というある意味最高の楽しみ方をずっとさせてもらっていたので、ここから先はそこまで積極的に追うつもりはないけど、もし何かを出版された暁にはきっと買うんだろうな…。でも学術書って今後どうなるのかな。それよりもいつかCiNiiとか検索したらずらずらずらっと町田君の名前が出てきたりするのかな。その時が楽しみですね。
ホントにどうでもいいんだけど、町田君の最近の髪型が「哲学の教授あたりがやってるこだわり髪型」に見えてしょうがないので、もう町田君は教授です←意味不明


大きな花束を抱えた町田君が、スケーターたちの作った花道を駆けていく。あの新聞記事で見つけた少年は、数え切れないほどの思い出を我々に残して、新しいステージへと繋がっているのであろう、白いカーテンの向こうへ消えていった。

4年前、引退発表のその時に心に浮かんだ言葉を、もう一度ここに記そう。


「ありがとう」
「楽しかった」


次回、最終回です。