うさぎパイナップル

主にフィギュアスケートの旅日記とテレビ観戦記とお題記事・ただ書き散らして生きていたい(ライター始めました2018・生活の糧と居場所募集中)

フィギュアスケートつらつら語り in 8月⑥ ―羽生結弦・24時間テレビスペシャル2019―

すっかり恒例となった羽生結弦選手の24時間テレビへの出演。発表されたのは放送の1ヶ月ほど前だったでしょうか。しかも、プログラムは『春よ、来い』で、ファンタジー・オン・アイスで共演したピアニストの清塚信也さんだけでなく、歌い手である松任谷由実さん本人まで出演するというではないですか。最強の布陣ですね。本気だよ24時間テレビ…。これだけで2時間番組にしてもいいレベルだろ…。

羽生君の出演時間は毎年だいたい同じくらいなので、今年も予想して待機していたところばっちりでした。


昨年北海道で発生した地震の被災地を訪ねる羽生君。彼自身東日本大震災を経験しているということはおそらくよく知られた話だし、今回も少しその時のエピソードが取り上げられていた。今回の舞台が北海道だったのはそれも理由だったのだろう。

仮設住宅を訪ねた羽生君の姿に、倒れ込むようにして驚いているその家のお嬢さん。帰宅して羽生結弦が家に座ってたら、第一声が「助けて」になるのは無理もなかろう…。世界中の羽生君ファンが「わかる!めっっっっっっっっっっっっっちゃわかる!」と激しく共感したのではなかろうか(笑)。
むしろ「助けて」って言葉にできただけで偉いと思うよ。私なら硬直して一言も喋れないか絶叫して意識を失うかどっちかだと思う…。

ハスカップ農家の方々を訪ねると、これまた感激していらっしゃる様子。そうですよね、羽生君が来たらそりゃ感激もするよ…。
腰を落として高齢の女性と握手して、彼女を見上げるように話をする羽生君に、この人は金メダリストなのに、なんておごらないんだろうと感激した自分の経験を思い出す。オリンピック開催まで一週間を切った日に届いたファンレターの返事を見て、絶対にこの人が優勝すると思った…。たぶん、うちに届いたのは最後の最後くらいだったのだろうと思うけど(だからもううちには来ないと思ってた)、当日はきっとみんな返事を握りしめて応援したと思う。その力がきっと、SEIMEIのルッツに伝わったのだ…。
突然ハスカップの売上が伸びたりするかもしれませんね。スムージーがバカ売れするかもしれませんよ。経済を回す羽生ファンを舐めてはいけない。羽生君も「食べまあす」ってかわいく呟いてたけど(くっ…。阿修羅の…阿修羅のくせに…←完敗)、きっと食べる人増えますよ…。食べて応援。そのパワーが復興の力にもなるといいですよね。


そして始まるアイスショー。今年も被災地の方々を招いて行われるようだ。被災地の楽団の演奏と松任谷由実の歌唱、さらに清塚信也のピアノに乗せて滑るという、おそらくはこのプログラムにおける、このプログラムを滑る目的における、考えうる最高の形だったのではないだろうか。

楽団の演奏からスタートし、松任谷由実が歌い始める。久しぶりに本人の歌唱による『春よ、来い』を聞いた気がする。とても好きな歌で、昔何度も何度も聞いていた。
途中で歌うのをやめ、バトンタッチをするように手を伸ばすユーミン。清塚さんが鍵盤を叩き始める。きらきらと光が零れるように、ピアノの音がリンクに踊り出す。

暗がりのリンクに揺らめく春の薫り。ひらひらとたなびく白い袖、白に柔らかに滲む薄紅の色。
羽生結弦
見上げる眼差しは、美味しそうにスムージーを飲んでいた、あのごく普通の青年の横顔ではない。春を告げる神の使者が、絶望と混沌の闇の中で舞い始める。

ツイズルは一見花が舞うような動きにも思えるけれど、プログラム序盤に入るツイズルの時点ではまだ春が遠いのだと感じさせる。凍り付いた大地を見つめ、苦悩する桜の精霊。今シーズンの競技に向けて既に戦闘モードに入っているようにも見えたかと思ったら、まるで気まぐれな春の女神のようにふわりと微笑む。カメラが正面から捉えたその表情に、射抜かれた人間も多いのではないか。
その微笑みはすべての魂を受け止め、受け入れ、新たな場所へと旅立たせる、菩薩のようであった。あの瞬間羽生結弦は、男でも女でもなく、いや人ですらない祈りの結晶へと姿を変えていたのかもしれない。

24時間テレビという番組の性質上、彼の演技は天災により破壊された土地や犠牲となった魂、これからもその地で生きていく人々に捧げられることが多かったように思うが、そのために競技やショーのそれ以上に「あの世とこの世の境目を繋ぐ」演技の領域にあるように感じていた。今回はそれがこれまででいちばん強かったように思う。
鎮魂や祈りの想いをプログラムに込めるスケーターは多いしそれは心に響くものだ。しかし羽生結弦は本当に、本当にもう二度と会うことのできない魂や、戻ってこない過去への扉をその舞で開けてしまう。羽生結弦を通して、我々は失ったものに出会い、その安らかな眠りに祈りを捧げる。
舞というものは本来こうやって神に捧げられていたのではないかと感じさせるような、原始の祈りの姿を見るような演技。私が羽生君の滑りに惹かれてやまない理由のひとつだ。こんなことができるスケーターは、ほかにはいない。彼にそのつもりは無いかもしれないけれど、私は時々、彼の演技に神性のようなものを感じずにはいられないのである。


地元の人たちの想いと、曲を作った、誰よりも曲を理解している人間の想いと、昨年羽生君とともにプログラムの世界を創造したピアニストと、そして羽生結弦の想いとが重なる。

たなびく白い袖。その腕に神を舞わせる氷と桜の精霊。ひらりふわりと春が戯れ始める。凍り付いた大地が、ゆっくりと目覚め出す。

強くて、優しい、夏の夜の薄紅。ただただ失われたものを包むのではなく、残ったものを明日へ導く意思に満ちた眼差し。それは時に厳しい運命を人にもたらす神の冷厳な横顔でもあったかもしれない。
羽生結弦特有の、性別や年齢を超越した儚さと、彼の内に眠る修羅が絡み合うように顔を覗かせ、ひとつに溶け合っていく。
絶望、鎮魂、再生、希望、未来。そのすべてが溶け合う。

非常に低い体勢でのハイドロ。雪深い大地にそっとくちづける春の精霊。その腕の一振りから花びらがこぼれだす。待ち望んでいた春が、優しく溢れ出す。勢いを増す風の中、青い空を覆い尽くすように薄紅が舞う。

スピン。夏の夜に咲きほこる薄紅がはらはらとこぼれ落ちる。えもいわれぬ余韻を残し、こぼれる桜の中に精霊は消えていく。
雲は晴れ、闇夜に白い三日月が昇る。春はまた、やって来るのだ。


これはあくまで研究と鍛練の上に培われた技術を駆使して演じられる物語のはずなのに、そんなものはもはや超越しているのだと感じた。こんなスケーターはこれまでに居なかった。この世のものとは思えぬほどに、壮絶なまでに美しかった。

彼はきっと、神がこの世に遣わせてくれた、この先の見えない時代の希望なのだ。我々が生涯に一度もこの目にすることはないであろう神が、その依代に選んだ青年。それは命そのものなのかもしれない。
選手としても表現者としても、今まさに同じ時代を生きて、羽生結弦という存在を見つめ続けられる幸せに感激以外の言葉がない。


見るたびに印象の違うプログラムだと思っていたが、今回は本当に羽生君の想いが伝わってくる演技だった。彼がまた、表現者として新たなステージに立ったことを感じさせる演技だった。

羽生君が震災によってその繊細な心に傷を背負ったことは、様々なエピソードから痛々しいくらいに伝わってきていた。それを思うと、その荷物は下ろしてもいいのではないかと考えてしまうこともある。しかし、実際の体験は、演技や言葉に強い説得力を持たせるものでもある。その痛みがあるからこそ、祈りが天に届く。悲しい経験なんて本当はしない方がずっといい。けれど、氷上の羽生結弦の壮絶なまでの美しさは、痛みと、傷と、闇と、涙を抱えてきたからこその美しさでもあるのだろうと思う。

「Continues ~with Wings~」の最後の最後に羽生君がファンに向けて発した言葉に、私は映画館で号泣した。おそらく人一倍繊細なのであろう彼が、きっと必死で見せないようにしていたのだろう本音に涙が止まらなかった。あの花の薫りのような柔和な微笑みは、まだとても若い彼の、壮絶な苦しみの先にある。だからこそ、彼の演技は希望となりうるのだ。この先、どんな運命が彼を待ち受けることになろうと、私はただ、ただ彼を信じて応援し続けるだろう。


以上、『news every.』も視聴しての感想でした。羽生君ファン的にはeveryが本番、は今年も健在でしたね。演技部分はナレーションも省かれ、ほぼ羽生君の滑りだけが流れる編集となっていて、プログラムそのものを堪能できる。いつもeveryでしか流れないのがもったいないくらい。繰り返し見たかったけど録画できないさだめなので(貧乏過ぎてデッキ買えない…)食い入るように見ました…。

はい、今回もやっぱりスーパーポエムでしたね!そんなつもりないのにやっぱり書いちゃったし!たぶん一週間くらいして読み返したら頭抱えるやつだし!だから珍しく書き上げてすぐにアップします。去年のポエムも大概だったけど今年も大概だよ。もうしょうがない。羽生結弦のあの演技を見てポエムを綴らずにいられる私なんて私じゃない←開き直り

もう一度『春よ、来い』が見られて嬉しかったです。ああ、このプログラムを一度でいいからこの目で見たかった。世界選手権行きたかったな…。NHK杯も死ぬほど行きたいのですけど貧民が過ぎて絶対無理そうで涙しか出ません…。私も経済を回す側に回りたいのですが実際はおなかがすいて目を回しているだけです←自虐

次に羽生君の滑りを見られるのはいよいよオータムクラシックでしょうか。ワクワクが止まりませんね。今シーズンも精一杯応援できたらいいなと願っております。それまでにシチズンの写真みたいなのが突然投下されるのかもしれんですけど←久しぶりにやばすぎる羽生君を見た…。私は意識を失った…。何あれクリアファイル作って…←うわごと


最後に、これまでに放送された『春よ、来い』を見ての感想を時系列に並べて比較した記事を置いておきます。あくまで私の主観ですが、今回の演技と比較しながら読んでいただけたらいいかな、と思います。はてなではなくnoteの記事ですが、無料で読んでいただけますのでお気軽に。時々こうやってはてなからnoteに記事を再掲してます。
note.mu


昨年の24時間テレビの記事はこちら。たぶん昨年の記事の中でいちばんポエム…。
usagipineapple.hatenablog.jp