男子フリーの感想最終回。最終滑走者についてが長いので記事を分けましたが、今回だけでも長くてすみません。のんびり読んでいただければ…。ではでは、早速どうぞ!
男子フリー④
第4グループ②
24︰羽生結弦
持ち越しプログラム『天と地と』。持ち越しと言っても、昨シーズンの全日本選手権と世界選手権でしか披露されていないので、持ち越しという感じがしませんね。
衣装はショートプログラムと同じ青系なので、別の色味のものに変更してくるかと思ったのですが、昨年と同じものでした。彼によく似合う薄いブルーにラッキーカラーだというピンクの花があしらわれていて、配色としては確かにこれ以外を求めるべきかどうかちょっと考えてしまうかも、今更ですけども。
既に練習で何度も挑戦する姿を見せており、自身も「4回転アクセルを入れる」と公言している。嫌でも注目はそこに集中してしまいますが、羽生君はそもそもショートがいいとフリーが崩れがちな選手。両方揃えられた時に記録更新や驚異の逆転優勝を遂げてきたのです。4回転アクセルを入れることでプログラムがガタガタに崩れてしまわないか、アクセルの成功を願う気持ちももちろんですが、私はそこがいちばん気になっていたかもしれません。
演技が始まります。羽生君が顔を上げた瞬間、物語の幕が落とされた音が聞こえた気がしました。その一瞬の仕草で、さいたまスーパーアリーナは戦国時代の荒涼とした山野に姿を変えたのです。
ひらり、美しい若武者は馬に跨がる。毛艶の良い、しなやかな馬の腹をひと蹴りすると、疾風のようにその姿は山野に駆け出す。4回転アクセルの軌道に入っていく、デジタル絵巻の蒼い若武者。
ただでさえ高さのある羽生結弦のトリプルアクセルより、さらに高く感じる跳躍。練習でも回り切れてはいなかったけど、今回も素人目にも回転が足りずに降りてくる。しかし両足でも転倒はせずこらえきる。それだけでも観客や視聴者が受ける印象は違ったかもしれない。
偉業の達成は次回に持ち越されたが、演技はここからがむしろ勝負。4回転アクセルのミス、ミスと呼ぶのもまた少し違うような気はするのだが、そのミスを受けて、そもそも体力の消耗も激しいであろう4回転アクセルを冒頭に組み込んで、このあとのプログラムが成立するのか。
その懸念は、4回転サルコウの成功でひとつ払拭される。あんな未知のジャンプを跳んだ直後でもこの質で跳べるのだ。畳み掛けるようなトリプルアクセルからタノのコンビネーション、トリプルループ。戦の神は髪の毛一本敵に渡さずに戦場を制圧する。
戦と戦の日々の隙間に、雪景色の中を、春浅い桜の吹雪を、若武者は静かに風景と戯れる。あれだけのジャンプをこなしながらも、音をまったく外さない。あたかも彼の指先や衣装の袖から音が零れ出てでもいるかのように。スピンやステップもレベル4。ステップがレベル3判定になることが多かった羽生君だが、今回はショートとともにレベル4で揃えた。
後半。4回転トゥループのコンビネーションが2本。体力面が心配になってくる後半だが、ほぼ揺らがない。最後の1本、トリプルアクセルを完璧に降りた瞬間、北京の地まで続く勝利の道が見えた気がした。4回転アクセルをあれだけ練習しても、トリプルアクセルがまったく崩れていないのだ。それどころか、ラストジャンプと思えないほどに美しい。
声が出せる状態ならば、観客の悲鳴で音楽が聞こえなくなっていたかもしれない。ここにいる羽生結弦は、我々のよく知っている羽生結弦で、それでいてまったく知らない羽生結弦なのではないか。昨シーズンの全日本で、シーズン初戦とは思えない素晴らしい演技に我々は涙したけれど、あの演技をさらに上回っている。4回転アクセルが成功していないにも関わらず、さらにレベルアップしているように感じる。
4回転アクセルといういまだ誰も成功者のいない技を組み込んでも、羽生結弦は羽生結弦の実力を申し分なく発揮できるのだ。こんな強烈なライバルたちへの挑戦状があろうか。ここにもし4回転アクセルの成功が加われば、羽生結弦はもうこれ以上はないと思われていたラインの更に上に到達してしまうのである。
もちろん息は上がっているけれど、これだけの密度のプログラムを滑り終わってもなお、その表情は好戦的な修羅のそれである。4回転アクセルのために鍛えた身体が、あらゆる意味で相乗効果をもたらしているように感じた。一般的な男性のことを考えるとずっと細いけれど、少年期のそれとは細さの質も変わっている。少年期の課題だった体力不足などもう誰も頭を過るまい。
…キスクラに戻ってからが超絶面白かったんですけど。コーチいないから完全に独り言なんですけど、よく喋るなお前(笑)。実況が独り言拾って解説の参考にしてるじゃないよ(笑)。噴き出しそうになったんですけど(笑)。なんだよ、手袋に向かって今年はお前がソーシャルディスタンスって(笑)。キスクラが面白過ぎて涙が引っ込んでしまいました(笑)。
羽生君が完璧超人の神だと思っている方には、ぜひキスクラの様子だけを映した動画を見ていただきたい(笑)。こういうところもたまらなく好きになってしまったあなた、もう抜け出せない何かへようこそ!←やかましい
結局、4回転アクセルの判定はダウングレード。これがせめてqまで行けば、一応成功ってことになるのか、qでもダメなのか。どっちだ。
「マジで驚かせてやりてえんだよ」などとたまらない中二発言を残しておられ、死ぬほど気の強い羽生君が大好きな私は「ッシャアアアありがとうございましたあああー!」でしたが(←いい加減黙れ)マジで驚かせてやる瞬間は持ち越しとなりましたね。本田君が、羽生君は舞台が大きければ大きいほど力を発揮すると言っていましたが、その通り全日本よりも大きな舞台での成功を神は用意しているのかもしれません。
4回転アクセルがダウングレードでもぶっちぎりの優勝でしたが、アクセルを入れずにこのクオリティであれば、たとえば冒頭をループにして成功していれば、もっと得点が出せているんですよ、参考記録ながら。フリップはまだ公式戦では入れてないけど、ルッツも跳べるし。4回転アクセルではなくルッツやループに置き換えたプログラムで、かなり確実に3連覇を狙おうと思えば狙えるわけですね。
全日本優勝者は北京代表も確定なので、羽生君は3連覇を取るのか4回転アクセルを取るのか、おそらく私の生きている間にはもう彼にしか取れないであろう選択を彼は2月に決断することになるのだな、と考えながら得点発表や表彰式を見ていました。得点発表はさすがにどよめいてた気が…。声出すなって言われてもなかなか厳しいよねえ…。うわ、コレオ満点だ。ステップもほぼ全員満点出してる。
そうです、全日本恒例、試合が終わるとMr.サンデー。表彰式で優勝者がかぶるオリーブ冠、また江田島で作られたものなんですね。羽生君どうしようか悩んでましたけど(汗)。メダルは相変わらず自分でかける仕様でしたが、昨年に比べるとちょっと今まで通りのセレモニー感があったかな。
そして、ついにその時が…。
代表発表
You Tubeでもライブ配信されてたのですけど、なかなか始まらないのでMr.サンデーで待ってたのですが、田中邦衛さんの話がのんびり流れてる間に代表発表が終わっていて、You Tubeも時折チェックしていたのにバッチリその瞬間を見逃して号泣。何のためにこのためだけに時間を空けて待ってたんだよ自分は!!!
男子はよほどのことがない限りこの3人だろうという予想通りの3人。表彰台もその3人でしたし誰も異論はないでしょう。今回も3人とも素晴らしく、日本男子で表彰台独占も夢ではないと思わせてくれました。平昌の金銀が一歩もその地位を譲らず、揃って出場してくれるというのも楽しみしかないです。
女子も表彰台の通りに。樋口さんは今シーズンの出来からしても固いだろうと思っていましたが、問題は3枠目ですよね。紀平さんが出場していれば紀平さんが入っていたでしょうが、紀平さんの代わりに国際大会に出場し活躍を見せていた河辺さんが選出。ある意味運命的なことかもしれませんね。本当に小さなミスで明暗が分かれてしまいましたが、6位の松生さんまで誰が代表になってもおかしくなかったと思います。
いちばん気を揉んだのはアイスダンスかもしれない。結局こちらも順位通り小松原夫妻が選出されましたが、四大陸選手権はともかく世界選手権は村元・髙橋の二人でした。この結果からしても、甲乙つけがたかったのではないかと予想されます。
髙橋君がアイスダンスに慣れてきたのか、今シーズンは明らかに昨シーズンとは別物のカップルになっていた二人。元々魅せる力は抜群に高く、シングルスケーターとして世界の頂点も見てきた髙橋君。技術が追い付いてくれば表現面も豊かに出せるようになる、そういうことなのでしょう。これからもっと伸びる、とワクワクした人も多いはず。
でもやはり未知数のカップルでもある。どちらのカップルにとっても、割って入る世界の壁は厚いのかもしれない。まさかアイスダンスの選考でこんなに気を揉む日が来るとは我々も思わなかったけど、競技に携わる側がいちばん刺激を受けてるかもしれないですね。どちらのカップルも奮起して、グイッと伸びてくれたらいいですよね。
もう代表ウェアに着替えて会見なんですな。そして羽生君の喋りのうまさに相変わらず唸ってしまう。北京への正直な想い、4回転アクセルと3連覇の天秤、どれも明確で明快。こんなに会見が上手いスポーツ選手なかなかいないと思うのですが…。
各局が撮った羽生君のインタビューも興味深いものでしたし、まだまだ我々は羽生結弦に夢を乗せていられるんだなって思ってしまいました。そうか、アクセルも連覇もその手にすると君は…。その固い決意が花開く日を見守りたい。
羽生君の出場をいちばん楽しみにしていたであろう北京オリンピックの主催の人たちホッとしてそう(笑)。そしてプルシェンコ、相変わらず予言者過ぎる(笑)。
素晴らしい全日本選手権でした。今年も生活が上向かず家での観戦になってしまったのが本当に無念ですが、素晴らしい時間をありがとうございました。北京も全力で応援させていただきます。
って、まだエキシビションがあるんでした。もちろん感想を綴っておりますので、次回以降に続けます。よろしかったらまた目を通してくださいね。ではでは、次回はエキシビションの記事でお会いしましょう。
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